研究課題/領域番号 |
17K16853
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
安岡 稔晃 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教 (60648624)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗腫瘍免疫 / CD8 T細胞 / 細胞内エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
腫瘍に対する免疫では、持続的な抗原刺激等により引き起こされるT細胞の疲弊が、腫瘍を排除する上で大きな障害となっている。これまでの解析から我々のグループは、活性化CD8 T細胞において、細胞内グルタミン代謝活性の亢進によりT細胞疲弊が誘導されることを見出している。そこで、本申請研究では、腫瘍免疫で重要なCD8 T細胞における細胞内グルタミン代謝の制御により、T細胞疲弊が抑制され高い抗腫瘍活性が得られるか明らかにするため、担がんマウスモデルを用いた解析を行った。まず、OVA特異的なT細胞レセプターを発現するOT-1 CD8 T細胞をin vitroで活性化培養した。通常培地で4日間培養したものをコントロール培養細胞とし、一方、グルタミンを除去した培地で3日間培養後、さらに通常培地で1日間の培養したものをdGln培養細胞とした。OVAを発現する胸腺腫瘍細胞E.G7をマウス皮下に接種したマウスを担がんマウスモデルとし、このマウスの尾静脈から培養したOT-1 CD8 T細胞に移入することで抗腫瘍活性の解析を行った。コントロール培養細胞では、移入後約20日目に腫瘍が増大し始め、40日後には70%のマウスの死亡が確認された。一方、dGln培養細胞の移入では、全てのマウスで腫瘍が消退し、死亡率も0%であったことから、グルタミン除去培養により、CD8 T細胞の抗腫瘍活性が増強されることが明らかとなった。次に、グルタミン代謝抑制が、実際にCD8 T細胞の抗腫瘍活性増強に働くかを明らかにするため、グルタミン代謝経路の阻害剤を用いて検討したところ、アミノオキシ酢酸(AOA)や6-Diazo-5-oxo-L-norleucine (L-Don)、エピガロカテキン(EGCG)といったグルタミン代謝経路に働く酵素の阻害剤でも、やはり抗腫瘍活性の増強が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、グルタミン代謝阻害剤を用いたグルタミン代謝抑制培養したCD8 T細胞の抗腫瘍活性を測定したところ、CD8 T細胞の抗腫瘍活性の増強が確認された。dGln培養細胞ではコントロール培養に比べ、疲弊マーカーであるPD-1の発現が低下し、細胞増殖も維持されることから、抗腫瘍活性の増強はT細胞疲弊の抑制によるエフェクター機能の改善であることが明らかとなった。さらに、他グループによるT細胞のメモリー分化が持続的な抗腫瘍活性に重要であるとの報告から、当初の計画にはなかったが、CD8 T細胞の分化に関する解析により、高い抗腫瘍活性の維持に働くとされるメモリー分化が、グルタミン代謝抑制によって誘導されるという新たな知見も得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果を念頭に置いて、今後はグルタミン代謝を抑制培養したCD8 T細胞のエフェクター機能について、より詳しく解析する。具体的には、移入前の培養細胞に抗原刺激を入れ、再活性化後のインターフェロンガンマ(IFN-γ)や腫瘍壊死因子(TNF-α)といったサイトカイン産生の解析、およびグランザイムB(Granzyme B)といったエフェクター機能分子の産生を解析する。また、長期免疫に働くメモリー分化を調べるため、細胞表面分化マーカーの発現やメモリー分化の誘導に関与する転写因子の発現、さらにミトコンドリアにおける酸化的リン酸化活性を測定し、培養後のCD8 T細胞におけるメモリー分化を測定する。様々な条件のグルタミン代謝抑制培養から得られた機能解析や分化解析のデータを総合的に判断し、抗腫瘍活性の増強に最も適した培養条件を見出す。当初の予定にあった異なる腫瘍細胞をもつ担がんマウスモデルの樹立についても、継続して作製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加を予定しその旅費に充てる予定であったが、スケジュールの都合で参加できなくなったため、次年度使用額が生じた。翌年度は、引き続き実験に使用する試薬など物品費および学会への旅費に使用する予定である。
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