近年、分子標的治療薬の承認とともに、卵巣癌に対する治療方針の選択肢が増えている。癌細胞に対する細胞毒性とともに、腫瘍が存在する環境や周囲の腫瘍免疫にも着目が集まっている。多くの癌腫と同様、卵巣癌においてもマクロファージは微小環境により免疫抑制に働くM2マクロファージに分化し、浸潤・血管新生を促進することで腫瘍増殖に関わる。我々の研究課題である、STAT3の活性化を阻害することでマクロファージのM2分化を抑制する天然化合物で、どこまで治療効果を向上できるか、さらに、治療補助薬として相乗効果がみられるかは、今後の治療薬開発にあたり、基盤となる事項である。 今回、我々は卵巣癌細胞に対するOnionin Aの抗腫瘍効果ならびに抗がん剤との併用における相乗効果について再現性の確認もかねて検討した。方法としては、培養液にこれらの成分を添加し、ヒト卵巣癌細胞株(SKOV3、RMG-I、ES-2)の細胞増殖能を検討した。さらに、抗癌剤(paclitaxel、cisplatin、carboplatin)、抗癌剤とOnionin Aの併用群を添加し、細胞増殖能に対する作用をWST-8 assayにて、STAT3活性化に対する作用をWestern blot法にて解析した。Onionin Aは卵巣癌細胞の細胞増殖能ならびにSTAT3の活性を有意に抑制し、再現性を確認した。さらに、Onionin Aは単独では効果が認められない濃度でも抗癌剤と併用することで、抗癌剤の効果を高めることが明らかとなった。卵巣がんモデルマウスへの天然化合物の投与による細胞増殖実験はモデルマウスの作成がうまくいかず、onionin Aの投与の効果検討ができなかった。 以上の結果から、Onionin Aは卵巣癌細胞のSTAT3を制御することで、細胞毒性を高める可能性が示唆され、Onionin Aと既知抗癌剤の併用することで、抗がん剤の補助治療薬になりうると考えられた。
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