BRCA1は、2本鎖切断(DSB)されたDNAの修復に働く。BRCA1はリン酸化されるタンパクであるが、リン酸化による機能制御は不明である。申請者は、Ppp6c(PP6の触媒サブユニット)がBRCA1に結合すること、さらに脱リン酸活性を持たない変異型Ppp6cはより強く結合することを見いだした。このデータは、PP6の失活がBRCA1の過剰リン酸化を起こすことを示唆した。申請者は、PP6活性の低下がBRCA1の異常を起こし、それによるDNA修復異常が卵巣がんや乳がんの発生原因となるとの仮説を持った。 卵巣がんにおいては、BRCAの変異または、その周辺の遺伝子変異が発症に関連していることが知られてきた。我々は、PP6が卵巣がんの抑制遺伝子として働くか否かを明らかにするために、Ppp6c欠失マウスを作製した。Ppp6cヌルマウスは胎生致死であることが分かった。そこで、次にPpp6cを組織特異的に欠失できるマウス(Ppp6cflox/flox)を作製した。これまで、生体内で、Ppp6cががん抑制的に働くか否かの解析は行われていなかった。そこで、申請者は、一般的にがん抑制遺伝子の同定に用いられているマウス皮膚発がん実験を使って検証することにした。Ppp6c欠失皮膚に対する紫外線照射実験により、Ppp6cが皮膚においてはUV誘発発がんの抑制遺伝子であることが分かった。またこの腫瘍において2本鎖DNA切断が高頻度に見出され、DNA修復異常が起きていることが示唆された。これらのデータを基にして、我々は、卵巣の腫瘍化について、「PP6機能不全→BRCA1リン酸化異常→DSB蓄積→がん遺伝子・がん抑制遺伝子の変異→腫瘍化」の仮説をもった。我々は、Ppp6cを卵巣特異的に欠損させ、がん抑制遺伝子として働くか否かの検討を開始した。
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