研究課題/領域番号 |
17K16878
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
佐藤 愛 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (60796168)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 卵巣がん / 微小環境 / 腹膜播種 |
研究実績の概要 |
がん性腹水中における卵巣がん幹細胞の増殖メカニズムを解明するため、本研究では、がん幹細胞の増殖促進に働く増殖因子の同定を目的として、患者検体腹水中に多く存在するマクロファージを含む微小環境に注目した。腹水由来のマクロファージと卵巣がん幹細胞のin vitro共培養の系を構築し、がん幹細胞の増殖や幹細胞性へ影響についての評価を行った。その結果、マクロファージとの共培養により、がん幹細胞の増殖や幹細胞の割合の増加がみられた。がん幹細胞におけるこれらの効果はマクロファージの培養上清との培養条件でも同様に得られ、アッセイの結果マクロファージから分泌されるタンパク質がこれらの効果を担っていることが示唆された。今後はさらに検体数を増やし、培養上清の解析による因子の同定、さらにがん幹細胞側の発現解析等を進め、マクロファージによるがん幹細胞の増殖への寄与のメカニズムを解明する。 さらに、がん幹細胞の腹腔内での増殖に重要な遺伝子発現等の解明を目的とし、患者検体腹水より樹立した複数のがん幹細胞を用いてマウスモデルにおける腹腔内細胞増殖および腹膜播種(転移)についての検討を行った。その結果、各々のがん幹細胞は特徴的な異なる増殖・転移を呈すという非常に興味深い結果を得た。これらのがん幹細胞の解析・比較をすることにより、腹腔内増殖・転移に重要なシグナル伝達、遺伝子群の特定を進め、がん幹細胞の腹腔内増殖メカニズムのより詳細な解明につなげる。 最終的にin vitro培養系およびマウスモデルにおける結果を包括的に解析し、腹腔内におけるがん幹細胞の増殖メカニズムを解明することにより、がん微小環境を標的とした治療法構築につなげることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん性腹水中に存在し卵巣がん幹細胞の増殖促進に働く増殖因子の同定を目的として、患者腹水中に多く含まれるマクロファージと、当研究室で樹立した卵巣がん幹細胞との共培養の系を確立した。この系を用いてがん幹細胞への影響の定量化を行うため、細胞の増殖、limiting dilution assayによる幹細胞の割合を解析したところ、腹水由来マクロファージとの共培養によってがん幹細胞の増殖、幹細胞の割合の増加が顕著にみられた。また、共培養と同様に、マクロファージの培養上清においてもがん幹細胞へ同等の影響を及ぼすことが可能であるという結果を得たことから、マクロファージから分泌される物質を同定するため、まずこの上清を用いてプロテアーゼ処理、タンパク質の分子量による分離、超遠心等の処理を行い、がん幹細胞への影響を評価した。その結果、エクソソームやアミノ酸等ではなく、5kDa以上のタンパク質ががん幹細胞の増殖等に最も効果があることが示唆された。今後、さらにより多くの検体由来のマクロファージにおいて検討をし、サイトカインアレイ、マススペクトル解析などによって有力な候補因子を絞り込む。同時に、それらがどのようなメカニズムで影響を及ぼしているのをがん幹細胞側の発現解析等により解析を進める。 一方、樹立した複数のがん幹細胞の腹水中における増殖メカニズムの解明を目的として、免疫不全マウスを用いてがん幹細胞をマウス腹腔内に注入し、それらの増殖および腹膜播種(転移)についての検討も行った。その結果、腹腔内における増殖・転移の可否に関し、各々の細胞において特徴的な性質を有するという非常に興味深い結果を得た。今後はこれらの細胞のRNA-seq解析およびこれまでに得られている発現解析等の結果をもとにプロファイリングを行い、腹腔内における増殖のメカニズムについてより詳細に解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
マクロファージの培養上清を用いたアッセイにより、がん幹細胞の増殖促進効果がマクロファージが分泌するたんぱく質による可能性が示唆されるため、今後はさらに症例数を増やして検討し、これらの上清のサイトカインアレイ等の解析により有力な因子を絞り込み、それらの評価を行う。また、がん幹細胞側の遺伝子解析等も進め、マクロファージを中心とするがん微小環境のがん幹細胞への影響をより詳細に解析する。 また、免疫不全マウスを用いた複数のがん幹細胞の腹腔内での増殖に関する解析・比較を行うことにより、腹腔内増殖および転移に必要なシグナル伝達、鍵となる遺伝子(または遺伝子群)の解明につなげる。さらに、よりヒトの腹腔内に近い環境下における解析を行うため、今後、ヒトの免疫細胞を備えたマウス(ヒト化NOGマウスなど)を用いて、腹腔内でのがん幹細胞の増殖・転移の解析を行う。 最終的には、in vitro共培養系とマウスモデルにおける結果を包括的に解析し、腹腔内におけるがん幹細胞の増殖メカニズムを解明することにより、がん微小環境を標的とした治療法構築につなげることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたサイトカインアレイ等の受託解析等の実験および動物実験を次年度に繰り越すことになり、また、旅費や人件費の支出がなかったため、次年度への繰越が生じた。in vitro共培養系やがん幹細胞の維持等の細胞培養、サイトカインアレイ等の解析、RNA-seq等の遺伝子発現解析や動物実験に使用させていただく予定である。
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