研究課題
本研究の目的は「卵巣癌細胞表面のLSR が腹腔内にある脂肪組織とどのように関わっているか、LSR が卵巣癌の腹膜播種の経路である遊走・接着・浸潤・増殖にどのように関わっているかを解明する」ことである。一般的に腹腔内は血流豊富な領域と比較して低グルコース等細胞増殖/生存に不利な条件とされている。in vitroにおいて我々はLSR陽性の卵巣癌細胞は低グルコース下でリポタンパクの一つであるVLDLを取り込み、細胞の増殖/生存に利用していることを解明した。また低酸素下においても同様にVLDLを取り込み、細胞の増殖/生存に利用してることを解明した。これらの作用は両条件下においてLSRが高発現し、VLDLをより多く取り込むことに起因することをタンパクレベルで明らかにした。またVLDLを投与によりLSR陽性卵巣癌細胞の細胞内脂質量が増加することも定量的に証明した。最終的に我々が開発した抗LSR抗体はこれらの経路を阻害する事を証明した。以上の発見は腹腔内の様な癌細胞の増殖/生存に不利な条件でLSRは高発現し、脂質の取り込みと脂質代謝を活性化し、癌細胞にプラスに働くことを意味している。in vivoにおいては独自に3系統のヒト由来卵巣癌組織移植マウスモデルを開発し、抗LSR抗体が全個体において抗腫瘍効果を示すことを証明した。
2: おおむね順調に進展している
上記研究実績の様に、LSRが低グルコースや低酸素で高発現し癌細胞の増殖/生存に寄与することを証明し得たことから、今後は同条件下でのLSR下流シグナルの解析が進むと考える。またヒト由来卵巣癌組織移植マウスモデルの開発に成功し、抗LSR抗体投与後の腫瘍組織を容易に入手可能となったことから、mRNAレベルでの解析も今後進展すると考える。
LSRが高発現する条件下で変化する既知の脂質代謝関連蛋白の解析をタンパクレベルで行う。またヒト由来卵巣癌組織移植マウスモデルに抗LSR抗体を投与し、投与後の腫瘍内のmRNAを網羅的に解析し、LSRの下流を探索する。ただしLSRノックアウト株の作成に未だ至っていないため、これを達成し、脂質投与時の細胞の反応を評価する必要がある。
発注中の試薬が在庫切れのため年度内に納品されなかったため
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Cancer Research
巻: 78 ページ: 516-527
10.1158/0008-5472