研究実績の概要 |
内耳を形成する蝸牛・前庭の障害は薬物、騒音、加齢など様々な原因で生じ、めまいや難聴をきたすが有効な治療法は存在しない。申請者は脳由来神経栄養因子BDNFの特異的受容体TrkBの作動薬である7,8-Duhydroxyflavone(DHF)を前庭障害モデルの動物に経口投与するとBDNF類似の作用により最終的に前庭機能が改善することを明らかにしている。 本研究では第一に前庭障害および蝸牛障害モデル動物に対する7, 8-DHF投与後のTrkBシグナル伝達機構の解明を目的としている。 前庭障害モデル動物は耳毒性を持つゲンタマイシン(GM)をモルモットの蝸牛内に投与することで作製した。この前庭障害モデルをA)DHF単独投与、B)Cyclotraxin-B(TrkB受容体阻害薬)単独投与、C)DHF+Cyclotraxin-B同時投与の3群に分け、D)GM未処置対照群とあわせて解析した。免疫組織学的検討では、A群はB, C群と比較して半規管有毛細胞密度、前庭神経軸索密度、前庭神経-有毛細胞間シナプス密度が有意に高く、同様にTrkBの下流シグナル分子と考えられるAKT, ERK, PLC-γの活性化がA群で多くみられた。これらの結果は経口的に投与されたDHFが前庭組織に到達し、TrkB受容体を介して前庭障害改善効果が生じたことを示唆する。 蝸牛障害モデル動物はマウスに対し騒音暴露(120dB、4-kHzオクターブバンドノイズ、4時間)することで作製した。前庭障害と同様のA)~C)の3群マウスにおいて、騒音暴露後1、7、14、28日目に蝸牛を採取し、D)騒音暴露なしの対照群と合わせて聴性脳幹反応による聴力変化、蝸牛神経軸索密度、ラセン神経節細胞密度、蝸牛神経-有毛細胞間のシナプス密度につき解析中である。
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