研究課題/領域番号 |
17K16895
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 淳 東京大学, 医学部附属病院, 登録診療員 (10755648)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 内耳障害 / 難聴 / めまい / BDNF / TrkB |
研究実績の概要 |
内耳を形成する蝸牛・前庭の障害は薬物、騒音、加齢など様々な原因で生じ、めまいや難聴をきたすが有効な治療法は存在しない。申請者は脳由来神経栄養因子BDNFの特異的受容体TrkBの作動薬である7,8-Duhydroxyflavone(DHF)を前庭障害モデルの動物に経口投与するとBDNF類似の作用により最終的に前庭機能が改善することを明らかにしている。 本研究では第一に前庭障害および蝸牛障害モデル動物に対する7, 8-DHF投与後のTrkBシグナル伝達機構の解明を目的としている。 初年度はゲンタマイシンを用いた前庭障害モデル動物にDHFを経口投与するとTrkB受容体の下流シグナル分子と考えられるAKT、ERK、PLC-γの活性化がみられ、投与したDHFが前庭組織に到達し、TrkB受容体を介して前庭障害改善効果が生じたことを示唆する結果が得られた。 当該年度においては、蝸牛障害モデル動物はマウスに対し騒音暴露(120dB、4-kHzオクターブバンドノイズ、6時間)することで作製した。この蝸牛障害モデルをA)DHF単独投与、B)Cyclotraxin-B(TrkB受容体阻害薬)単独投与、C)DHF+Cyclotraxin-B同時投与の3群に分け、D)騒音暴露なしの対照群とあわせて聴性脳幹反応による聴力変化、蝸牛神経軸索密度、ラセン神経節細胞密度、蝸牛神経-有毛細胞間のシナプス密度について解析した。 しかしながら、A群においてDHFによる騒音性難聴の改善はみられず、免疫組織学的検討においてもA群ではTrkB下流シグナルの活性化や組織学的な保護・改善効果は得られず、今後は騒音暴露条件やDHF投与量変更などを再検討する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度計画として掲げた前庭障害に対する7,8-DHF経口投与後のTrkBシグナル伝達機構の解明については概ね目的を達成している。しかし、蝸牛障害に対する同様の解析については今のところ7,8-DHF経口投与群において有意な聴力改善は得られておらず、組織解析についても同様である。今後は騒音条件や投与薬剤の濃度等を変更して解析をすすめる必要があるため。
|
今後の研究の推進方策 |
TrkB受容体はSHP-1およびSHP-2を介して不活化することが知られており、SHP-1/-2の発現抑制によりDHFの作用促進が期待される。今後はこれまで作成した前庭障害モデル、蝸牛障害モデルを、A)DHF単独投与、B)SHP-1 siRNA単独投与、C)SHP-2 siRNA単独投与、D)DHF+SHP-1 siRNA同時投与、E)DHF+SHP-2 siRNA同時投与、F)DHF+SHP-1 siRNA+SHP-2 siRNA同時投与の6群に分け、G)GM未処置ないし騒音暴露なしの対照群とあわせて、SHP阻害単独での治療効果およびTrkB作動薬との相乗的な内耳障害治療効果を機能的、組織学的に検証する。なお、SHP阻害によるTrkBの抑制阻害が進まない時はSHP siRNAの投与濃度や投与時期の再検討をすると共に、SHPより上流のPIR-B欠損マウスを用いることなどにより対応する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は2年間で申請をしていたが、研究の進捗状況が振るわず、当該科学研究費助成事業の補助事業期間を3年間に延長していただいたために次年度使用額が生じた。次年度使用額は主に実験試薬や実験動物の購入、学会発表、論文投稿への使用を計画している。
|