研究実績の概要 |
内耳を形成する蝸牛・前庭の障害は薬物、騒音、加齢など様々な原因で生じ、難聴やめまい・平衡障害をきたすが有効な治療法は存在しない。7,8-Dihydroxyflavone(DHF)は脳由来神経栄養因子(BDNF)の特異的受容体TrkBの作動薬であり、経口投与が可能である。 本研究では、ゲンタマイシンを用いた前庭障害モデル動物(Guinea pig)に7,8-DHFを経口投与すると前庭組織において膨大部神経の温存、前庭有毛細胞の自発的再生増加、有毛細胞-膨大部神経間のシナプスリモデリングに加え、TrkB受容体の下流シグナル分子であるAKT、ERK、PLC-γの活性化がみられ、最終的に前庭機能が改善することを明らかにした。この結果は経口投与した7,8-DHFが前庭組織に到達し、TrkB受容体を介して前庭障害改善効果が生じたことを示唆する。 蝸牛障害モデル動物はマウスに対し騒音を暴露(120dB、4-kHzオクターブバンドノイズ、6時間)することで作製した。この蝸牛障害モデルに対して騒音暴露の2時間後から14日間7,8-DHFを経口投与し、聴性脳幹反応を測定した。しかしながら、7,8-DHFによる騒音性難聴の改善効果はみられず、組織学的検討においても騒音暴露のみの群と比較して蝸牛組織におけるTrkB下流シグナルの活性化や有毛細胞の保護・改善効果は得られなかった。 前庭障害と蝸牛障害における7,8-DHF経口投与の治療効果の相違は、それぞれの感覚細胞における再生能の相違やTrkB受容体の発現量の相違などが想定され、今後更なる検証が必要である。
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