研究実績の概要 |
【背景】糖尿病に合併する聴覚障害、前庭機能障害には未解明な点が多く、機序、予防・治療法は確立していない。内耳の構造的な観点から、糖尿病性聴覚障害と前庭機能障害の関連する可能性が高いが、動物実験での前庭機能評価法が困難であった為、まだ解析が進んでいない。 【目的】本研究では、糖尿病モデルマウスを用いて、前庭誘発筋電位(VEMP)、聴性脳幹反応(ABR)および歪成分耳音響放射(DPOAE)測定を経時的に実施し、糖尿病に合併する聴覚障害と前庭機能障害の進行経過を明らかにする。 【結果】2型糖尿病モデルマウスとして、C57BL6/J系統の野生型マウスに高脂肪食を投与した(high fat diet; HFD)マウスを用いた。約5ヶ月間、DPOAEとABRを経時的に測定した所、対象群と比較して、HFD群のDPOAEの成績は8 kHz, 12 kHz, 16 kHzの周波数で有意に改善した。ABRの結果も同様に、12 kHzと16 kHzの周波数で有意に改善した。一方、レプチンに変異をもつ肥満モデルマウスのob/obマウスでは、HFDマウスが示したような傾向は観られなかった。VEMPについては、HFDマウス及びob/obマウスは、対象群と比較して、有意な差は観られなかった。 【今後の検討課題】今回のABRとDPOAEの結果は予想に反する傾向であるが、HFD投与よりC57BL6/J系統の野生型マウスのABRの成績が改善した報告もある。ob/obマウスでは、HFDマウスのような傾向が観られなかった事から、HFD自体に何か有効な成分が含まれている可能性がある。今回のVEMPの結果から、少なくとも今回用いた糖尿病モデルマウスでは、前庭機能障害を誘発しない事が示唆された。今後は、例数を増やすと共に、1型糖尿病モデルマウスの測定も実施して、慎重に検証を重ねる予定である。
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