研究課題
従来の頭頸部がんにおける治療の主体は手術と放射線療法であったが、近年になり化学療法、免疫療法を合わせた集学的治療が行われてきている。本研究は、治療成績の向上のためウイルスゲノム中にサイトカインシグナル抑制因子(SOCS1)を発現するように遺伝子改変した腫瘍溶解性ウイルスHF10と免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせによる新規治療法の開発を目的とする。平成29年度は、SOCS1を発現する遺伝子改変HF10 (HF10-SOCS1)の構築を遂行した。HF10ゲノムのUL43遺伝子はフレームシフト変異のため機能していないことから、この遺伝子座にSOCS1遺伝子を導入することを計画した。CMVプロモーターによりSOCS1遺伝子発現を制御し、IRESを介してZsGreen1も発現するようにした外来遺伝子カセットの両端にUL43遺伝子と同じ塩基配列を配したプラスミドを構築した。このプラスミドをHF10ゲノムと共にVero細胞にトランスフェクションし、相同組換えにより外来遺伝子をUL43遺伝子座に組み込む方法を用いた。これにより、まずZsGreen1のみを発現するHF10の構築を試みたが、相同組み換えの効率の低さが問題となった。その対策として、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いたところ、相同組換え効率を向上させ得ることが示唆された。今後は、この技術を用いてHF10-SOCS1の開発を進める。マウス扁平上皮がん細胞SCC7のPD-L1のmRNA発現を検討したところ、マウス皮下移植条件下 (in vivo)でPD-L1 mRNAの著しい上昇が見られ、HF10を腫瘍内投与することにより、さらにPD-L1の発現上昇が認められた。この結果はHF10ならびにHF10-SOCS1と抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の併用効果を期待させる。
3: やや遅れている
SOCS1遺伝子導入用プラスミドの作製は計画通りに行うことができたが、SOCS1遺伝子が安定的にゲノムに挿入された遺伝子改変HF10の構築にやや時間を要している。HF10-SOCS1の作製及びそのプロフィルの確認やHF10-SOCS1感染によるSOCS1発現上昇、それに伴うIFNガンマ並びにPD-L1の発現減少の確認までは平成29年度内に着手することができなかったため、やや遅れていると評価した。
HF10-SOCS1の作製を直ちに行い、その殺細胞効果の検討、さらに免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を検討する。具体的には、動物実験においてHF10-SOCS1や親株HF10の単独投与や、免疫チェックポイント阻害剤単独投与後の癌微小環境の変化についてRegulatory T cell、 Tumor associated macrophage、T cell(CD4,CD8)、血管新生、MDSC等の動向を中心に研究し、癌抗原免疫をSOCS1-HF10および親株HF10の単独投与、免疫チェックポイント阻害剤単独投与がどの様に賦活化するかを明らかにする。HF10-SOCS1と免疫チェックポイント阻害剤との併用は、各単剤よりもより強く遠隔転移腫瘍に対して抗腫瘍抑制効果を示す事ができるかを検討する。単独使用と比して併用療法は相乗的な効果を示す事ができるのではないかと仮説しそれを証明する。遠隔転移腫瘍に対する抗腫瘍効果は宿主の抗腫瘍免疫による抑制が強く影響している事を明らかにする。SOCS1-HF10と免疫チェックポイント阻害剤との併用により示された抗腫瘍抑制効果は単剤と比してどの程度まで血液中や腫瘍中のIFNの変化、Regulatory T cell、 Tumor associated macrophage、T cell (CD4,CD8)、血管新生、MDSCを変化させているのかを追跡し、併用療法が抗腫瘍免疫を強く賦活化する事を明らかにする。本研究で修得した知識を基に他の癌腫への応用を考える。NY-ESO-1、WT-1やMUC-1発現遺伝子をHF10内に組み込み、それをターゲットとするTCR改変リンパ球との併用療法により難治食道癌、悪性黒色腫、膵癌への応用を研究する。本研究はターゲットとする癌抗原を変更する事で幅広い癌腫に応用が可能であると考えられる。
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Front. Oncol.
巻: 7 ページ: 149-160
10.2147/OV. S127179
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/intlexch/cancerimmuno/www/index.html