研究課題
当講座では再生誘導型の人工気管を臨床に使用してきた。この人工気管は上皮および間質の再生を誘導するものの、気管軟骨の再生は誘導できないため、気管の枠組み保持には非吸収性のプラスチックを用いてきた。軟骨成長過程の小児への使用を開始するために、軟骨組織を有する人工気管開発が求められる。動物実験では自家軟骨細胞移植により、人工気管内に軟骨組織を形成させることに成功したが軟骨細胞の定着率は悪く、軟骨細胞が他組織の再生を阻害するという副作用も見られた。軟骨細胞由来の血管新生阻害因子が一因と考えられるため、本研究では軟骨細胞由来因子の拡散防止が可能な人工気管開発を目指す。動物実験レベルで、上皮、間質、軟骨などから成る複合組織としての気管再生を達成する。ウサギ肋軟骨細胞をコラーゲンスポンジの一部分に播種し、その周囲にヘパリンを結合させた。培養環境でウサギ肋軟骨細胞は生存可能であることを確認した。ウサギ肋軟骨細胞を埋め込んだヘパリン結合スポンジを動物の皮下に移植し、軟骨細胞の生存や血管新生を組織学的手法により評価したところ、軟骨組織に特徴的なECM成分であるII型コラーゲンが免疫染色により検出され、軟骨細胞周囲には血管新生が確認された。また、bFGFの併用を行ったところ、ヘパリンおよびbFGFを含まない移植材に比べて血管新生が促進された。近年開発された高強度コラーゲンスポンジは、軟骨に近い強度を有することが確認されており、これを用いた気管移植材の作製を現在試みている。
3: やや遅れている
当初は気管への移植に用いる円筒形の枠組みとしてポリ乳酸を考慮していたが、ポリ乳酸による炎症惹起が心配されることが、当科での他の研究により示唆された。本年度において他の生分解性プラスチックについても検討したが、強度の点、整形のしやすさ等の点で不安が残ると考えられたため、研究の遅れにつながった。最近開発された高密度コラーゲンスポンジは整形のしやすさに幾分難が残るものの、生分解性プラスチックと比較して生体適合性に優れることから、今後の研究で用いていくこととする。
移植用グラフトとして、移植後も円筒形を維持することができるように環状の高密度コラーゲンスポンジを骨格として配し、それにヘパリン結合コラーゲンスポンジを組み合わせたものを作製する。最終的には、この移植用グラフトへ自家軟骨細胞を含ませ、気管欠損へと移植し、気管再生への効果を検討する予定である。
気管移植材の作製に3Dプリンターを用いるのではなく、他の方法で作製することになったため。
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Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicine
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10.1002/term.2835