私はcDNAライブラリから内耳に特異的に発現するEpiphycanに注目し、既にマウスの蝸牛のコルチ器支持細胞に豊富に発現することを明らかにしていた。 その内耳における機能を解明するため、CRISPR-Cas9法を用いてEpiphycanノックアウトマウスを作成し、matingを行ってノックアウトマウスの系統を確立した。作成したノックアウトマウスと野生型マウスの聴力を聴性脳幹反応を用いて測定したところ、ノックアウトマウスにおいて特に16kHz以上の高音域において聴覚閾値が上昇していることが判明した。この研究結果によってEpiphycanが聴覚において重要な役割をしていることが明らかとなった。 そのメカニズムを明らかにするためにParaffin切片のHE染色標本の観察を行ったが、ノックアウトマウスの内耳形態やラセン神経節密度に明らかな野生型マウスとの相違は認められなかった。さらにPhalloidin蛍光染色とNeurofilament蛍光染色で有毛細胞や神経線維の形態を観察したが、明らかな相違は認めなかった。Epiphycanの内耳における機能は未解明であり、今後さらなる検討が必要である。 また、cDNAライブラリからEpiphycanと同様の手法で注目したFGF12(Fiblast growth factor 12)に関しても内耳、特に前庭神経節や有毛細胞直下の神経線維に特異的に発現することをIn situ hybridizationおよび免疫染色で明らかにした。同じ方法でノックアウトマウスを作成し、FGF12ノックアウトマウスにおいては8kHz以上の音域で聴覚閾値が上昇していることを明らかにした。また、Rota-rod testで野生型より早く落下することより何らかの平衡機能障害をきたしている可能性が高いと考えられた。FGF12についても今後さらなる検討が必要である。
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