前年度までの研究の5-HT3A受容体が外有毛細胞の遠心性線維に発現していることを受け、この受容体が蝸牛の遠心性制御に不可欠であることを確認できた。さらに受容体刺激薬および受容体阻害薬の動物モデルへの投与実験により、5-HT3A受容体ノックアウトマウスで得られた結果を薬理学的に再現することができた。このことにより従来予防、治療薬が確立されていない音響外傷による内耳障害に対する予防薬、治療薬につながる知見を得ることができた。 また、シスプラチンによる内耳障害モデル動物を用いた実験により、この受容体がシスプラチンの内耳毒性に対して深く関与していることが確認できた。シスプラチンは抗ガン剤として広く実臨床の現場で使用されている薬剤であるが、その副作用の一つである内耳障害に対しては現在のところ有効な予防法や治療法は確立されていないのが実情である。我々の動物モデルを用いた検討によると、5-HT3A受容体ノックアウトマウスはこのシスプラチンによる内耳障害に対して抵抗性があることを突き止めた。さらには5-HT3A受容体阻害薬投与により、その結果を薬理学的にも検証できている。以上のことからこの受容体が内耳の遠心性制御に関与すること、シスプラチンの内耳障害に深く関与していることが解明できたことは非常に意義深いものと考えられる。今後他の薬剤性内耳障害などにもこの受容体が関与している可能性があり、今後はそれらについても検討する余地があると思われる。
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