本研究は,視覚野の可塑性を制御するマスター遺伝子であるホメオタンパク質Otx2が内耳形成においても必須の転写因子であることに注目し,聴覚野可塑性にもOtx2が関与しているかどうかを明らかにすることを目的としている。本研究が発展することによりOtx2による可塑性制御機構が明らかになれば,人工内耳治療やリハビリテーション領域に基礎的知見を提示できることのみならず,聴覚中枢の障害修復や,脳機能再建療法の開発へも繋がると考える。 平成30年度は,生後の聴覚可塑性におけるOtx2の役割を明らかにするため,Cre-loxPシステムを用いて,組織特異的かつ時期特異的なOtx2欠損マウスの作製を行った。Otx2は胎生期に脳を作るホメオタンパク質であり,初期発生において欠損すると脳全体が失われる。生後における時期特異的な欠損をタモキシフェン投与により誘導した場合の,マウス表現型の詳細な解析を進めている。また生後発達期において,臨界期が形成される前後ならびに臨界期中のマウス大脳皮質聴覚野からレーザーマイクロダイセクションにより組織を回収し,次世代シークエンサーを用いたRNA-Seq解析に使用できる品質および量のRNAを抽出することができた。このRNAを用いて,生後発達依存的な遺伝子発現プロファイルの解析をおこなっている。今後さらに時期特異的なOtx2欠損マウスでも同様にRNA-Seq解析を行い,Otx2の下流で働く遺伝子を絞り込む予定である。
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