当教室ではマウスの嗅細胞の軸索を切断した外傷性嗅覚モデルを用いて嗅覚障害およびその再生についての研究を行っている。神経再生には神経細胞自体の再生のみならず、2次ニューロンとのシナプス形成やその位置情報の正しい構築が必要であると考えられるが、嗅細胞に高度な障害が加わると再生した嗅細胞は投射異常をおこしたり、2次ニューロンの退縮がみられる。われわれは再生した軸索の投射異常を正常化させるために種々の実験を行っている。前年度の研究では、発生期に発現し、成人期には消失する軸索ガイダンスを後天的に投与することで再生嗅細胞軸索を正しい投射に導くことができるのではないかと考えたが、軸索因子のひとつSemaphorin3Aを投与したところ、軸索伸長そのものが阻害されていた。そこで本年度はSemaphorin3A自体の神経阻害因子としての作用を抑えるべく、Semaphorin3A阻害薬を点鼻して再生軸索の伸長を観察した。前年度までの実験同様マウスの嗅細胞軸索を切断し、外傷性嗅覚障害モデルを作成した。軸索切断直後から3週間切断側の鼻腔からSemaphorin3A阻害薬を点鼻して、障害42日後に嗅球を確認した。対象群としては生理食塩水の点鼻を同期間行った。対照群では再生軸索は嗅球上の本来の投射すべき位置より前方に投射していたが、Semaphorin3A阻害薬投与群では投射位置が後方に改善していた。しかし、本来投射すべき位置とは異なる位置で投射しており、今後、さらに軸索伸長を促進したのち、正しい投射位置に導く方法を検討しているところである。なお、研究者の出産、育児に伴い研究活動に遅れが出たため、延長申請を行った。
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