頭頸部に発生する悪性腫瘍のうち約90%は扁平上皮癌であり、唾液腺癌をはじめとした腺癌系統の組織型を主体とする非扁平上皮癌の発生は比較的まれである。その病理組織型は非常に多彩であり、各々の組織型についての分子生物学的特性は十分には解明されていない。①初回治療を行った耳下腺癌症例について、臨床病理学的事項の検討を行った。結果、51.8%の症例が病理学的に中-高悪性度の腫瘍組織型であり、57.4%の症例が初回治療時に進行ステージであった。また多変量解析において組織学的中-高悪性度、切除断端陽性は疾患特異的生存率と有意に相関していた。②ezrin蛋白の高発現を唾液腺癌全体の28.5%で認め、組織学的高悪性度、Ki-67高値、p53異常発現、HER2高発現と有意な相関を認めた。ezrin高発現群は低発現群と比較して有意に術後の遠隔転移発生率が高く予後不良であり、とくにezrinとHER2を共発現する群は高率に遠隔転移を来し予後不良であった。③EGFR蛋白発現を再発転移唾液腺癌症例の77.8%で認めたが、臨床病理学的因子や予後との関連は認めなかった。EGFR遺伝子コピー数増加は16.7%の症例に認め、リンパ節転移との相関を認めた。唾液腺癌症例に対する抗EGFR抗体薬の治療効果は限定的であった。④PD-L1発現(CPS≧1)を再発転移唾液腺癌の68.5%の症例で認めたが、腺様嚢胞癌症例での発現率は0%であり、一方で高悪性度である唾液腺導管癌、低分化癌症例ではそれぞれ88.8%、100%と高率な発現を認め、組織型による発現率の差を認めた。唾液腺癌における抗PD-1抗体薬の治療効果は限定的であったが、一部の高悪性度組織型(とくに導管癌)、PD-L1高発現例に対して治療効果が期待できる可能性が示唆された。
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