WntシグナルのGFPレポーターマウスであるWntVISを用いて、内耳凍結切片を作成し詳細な解析を行った。Wntシグナルの活性は、蝸牛有毛細胞では観察されなかったのに対し、前庭の有毛細胞では胎生期から成体まで持続的に観察された。蝸牛支持細胞の一部でも、胎生期から成体にわたり活性が持続的にみられた。これらの細胞は蝸牛の幹細胞の候補であり、今後も基盤研究(C)資金により解析を継続する。 ラセン神経節ではE15からP30までの解析をこれまで行ってきた。ラセン神経節ニューロンではP7まではWntシグナル活性がみられるものの、神経が成熟するP14以降では活性が失われていることが確認できた。一方でラセン神経節グリア細胞であるシュワン細胞において、若年マウスではWntシグナル活性を認めないが、成体になると一部の細胞でGFP陽性となった。ラセン神経節ニューロンが幹細胞として休眠している可能性があり、解析を続ける。 また、ラセン神経節のType 1ニューロンのみを選択的に阻害するOuabainを経正円窓的に投与し3日目に解剖したマウス内耳切片において、基底回転のラセン神経節ニューロンの著明な減少と、残存ニューロンに強いGFP蛍光を認め、Wntシグナルが細胞障害後に賦活化されうることが示された。 また本研究と関連して、Ouabainの鼓室内投与によりラセン神経節細胞障害を起こしたマウスでは、神経栄養因子とバルプロ酸を投与した場合に神経が増殖し、わずかながら聴力改善がみられることを明らかにできた。
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