顔面神経麻痺(Facial Palsy:FP)は自然治癒があるが、高度麻痺が生じた場合、麻痺の残存や病的共同運動が生じやすい。麻痺直後の保存的治療、減荷術などの手術治療の有効性が報告されているが、リハビリテーションも病的共同運動が生じないようにするために重要である。しかし、FP時の顔面運動の中枢制御機構やリハビリテーションによる脳活動の変化については報告が少なく、FPリハビリテーションは経験則により実施されているのが現状である。また、高度麻痺が残存する場合には、舌下神経-顔面神経吻合術がFPの動的再建手術として行われ、顔面表情筋が顔面神経と舌下神経の二重支配を受けることが動物実験で証明されている。動的再建術では、リハビリテーションが機能回復に重要であるが、リハビリテーションの効果を脳活動から裏付ける研究は未だ無い。 本研究では、機能的核磁気共鳴画像(functional MRI:fMRI)を用いて、FP症例の脳活動を検討することによって、顔面運動の中枢制御機構とリハビリテーションの治療効果を脳機能面から明らかにし、より有効なリハビリテーション法を新規開発することを目的とする。 左急性FP15例と健常人15例の解析では、非麻痺側(右)の大脳感覚運動野に強い賦活が認められたが、その一方で、麻痺側(左)の一次運動野および非麻痺側(右)の小脳では賦活が減少していた。また、右急性FP12例と健常人10例の解析では、非麻痺側(左)の中前頭回、上前頭回に強い賦活が認められたが、その一方で、麻痺側(右)の一次感覚野では賦活が減少していた。 このことから、末梢性顔面神経麻痺の急性期においては、非麻痺側の大脳感覚運動野、前頭回に対しては興奮性制御が生じ、麻痺側の大脳感覚運動野および非麻痺側の小脳に対しては抑制性制御が生じている可能性があることが示唆される。
|