研究課題/領域番号 |
17K16942
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
粕谷 健人 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (70594521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 耳科学 / 内耳 / 耳小骨 / 破骨細胞 |
研究実績の概要 |
我々は、マウスの耳小骨の破骨細胞数を人為的に増減させることに成功し、破骨細胞数の制御による耳小骨形態の変化が、聴覚機能に大きな影響を与えることを示してきた。骨吸収と耳小骨・聴覚の関連性は先行研究にて示されている。破骨細胞の機能に異常が生じる代表的な臨床例としては、若年性Paget病と呼ばれる常染色体劣性遺伝病などが挙げられる。 動物実験から健常なヒトの耳小骨の形成の機構を解明することで、上記のような中耳疾患の理解・治療方法の解明に繋がると考えられる。耳小骨の骨化は軟骨細胞を破骨細胞が貪食することで生じるため、破骨細胞の活性や分布は中耳組織の骨化のタイミングと関連すると考察される。本来であればヒト中耳の破骨細胞の観察が臨床応用上で最適ではあるが、実際に活動している破骨細胞をとらえることは困難であるため、マウスモデルにて、耳小骨の破骨細胞を観察した。そこで、本研究ではまずマウスの耳小骨に蛍光タンパク質であるDsRedを発現させたトランスジェニックマウスを作成した。これを用いて破骨細胞の数を経時的に追っていくことにより、健常マウスの耳小骨の形成について評価し、耳小骨の形成機序が判明し、これらを疾患モデルに照らし合わせることが可能となった。 さらに、人工的に作成した中耳炎モデルマウスの耳小骨や内耳骨をTRAP染色で観察することで、現時点で中耳炎モデルの耳小骨ではツチ骨頭、キヌタ骨長脚、アブミ骨底以外において破骨細胞の増加が観察され、アブミ骨底では代償的に破骨細胞発現が低下していることを確認した。これにより、ヒト中耳炎による難聴メカニズムの解明に結び付く手がかりを得た。 また並行継続して、内耳機能と骨代謝、臨床による内耳疾患への影響を調べるため、マウスにおける中耳炎内耳炎モデルから炎症による内耳骨代謝と聴力への影響を現在研究継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではマウスの耳小骨に蛍光タンパク質であるDsRedを発現させたトランスジェニックマウスをまず作成した。これを用いて破骨細胞の数を経時的に追っていくことにより、健常なマウスの耳小骨の形成について評価した。その結果、健常マウスでの耳小骨の形成機序が判明し、これらを疾患モデルに照らし合わせることが可能となった。さらに、平成30年度は中耳炎モデルマウスの耳小骨や内耳骨を、TRAP染色で観察することで、中耳炎モデルの耳小骨ではツチ骨頭、キヌタ骨長脚、アブミ骨底以外において破骨細胞の増加が観察され、アブミ骨底では代償的に破骨細胞発現が低下しているなどの炎症や耳小骨骨化の不均一像を確認した。これにより、ヒト中耳炎による難聴メカニズムの解明に結び付く手がかりを得た。 マウスにおいて内耳における破骨細胞の発現を同様に解明し健常モデルにおける骨形成機序を解明している。また並行して、内耳機能と骨代謝、臨床による内耳疾患への影響を調べるため、マウスにおける中耳炎内耳炎モデルから炎症による内耳骨代謝と聴力への影響を現在研究継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、マウス中耳炎内耳炎モデルでの、炎症による破骨細胞分布や耳小骨内耳骨代謝を解析する研究が進展した。破骨細胞抑制因子ノックアウトマウスにおいて骨粗鬆症治療薬による難聴予防の報告があり、治療に有効な投与経路の解明につながる点において、これらの破骨細胞発現分布や難聴を生じる耳小骨骨化の分布について更なる解析を継続する。 また、今後もマウス内耳における破骨細胞の発現を同様に解明し健常モデルにおける内耳骨形成機序の解析を進めていく。最終的にマウス蝸牛窓に人工電極を挿入した疑似的人工内耳マウスを作成し、経時的に内耳骨代謝像と聴力の推移を評価することで、電極による内耳骨への影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の購入費や試料費はその他で計上しています。今回の計上には、研究を統計的にまとめ、論文作成をするまでの人件費が入っておりません。次年度にまとめて計上する予定であり、その分の費用を次年度使用額として繰り越ししております。次年度では継続した飼料費、試料費の計上と、論文投稿費用、人件費にて予定通り満額で直接経費を受領する予定としています。
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