Sp-1の下流にあるEcel1に着目して、まず視神経挫滅後のマウス網膜におけるEcel1発現をqRT-PCR、ウエスタンブロッティング、および免疫組織化学により評価したところ、視神経挫滅は網膜神経節細胞において特異的にEcel1発現を誘導し、その発現は視神経挫滅後4日目にピークに達した。次に、視神経へのビンブラスチン投与およびNMDAの硝子体内注射を用いてEcel1遺伝子発現を評価した。いずれも網膜神経節細胞死を誘導するが、Ecel1遺伝子の発現はビンブラスチンによる軸索輸送の抑制によって誘導されたが、NMDAによる興奮毒性によっては誘導されなかった。さらに、Ecel1遺伝子をアデノ随伴ウイルス-CRISPR/Cas9システムを用いてノックダウンし、網膜神経節細胞の生存を逆行性標識、qRT-PCR、および視覚誘発電位で評価したところ、Ecel1のノックダウンは視神経挫滅後の網膜神経節細胞の喪失を促進した。 本研究成果は、網膜神経節細胞におけるEcel1の発現誘導がマウスの視神経の軸索損傷に対する網膜神経保護反応の一部であることを示唆している。これらの知見は、Ecel1が外傷性視神経症において生じるような、網膜神経節細胞の障害の軽減のための新規治療標的の可能性を示している。そしてSp-1自体も細胞保護効果が報告されているため、Sp-1の細胞保護メカニズムの一部にはEcel1が関与していると推測される。
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