研究実績の概要 |
TFAP2Bは、角膜内皮の発生およびその分化過程に重要な転写因子であり、近年、リン酸化STAT3はTFAP2Bの発現制御によって角膜内皮の細胞増殖を担う因子としても報告された。また、TFAP2Bノックアウトマウスの解析から、角膜内皮のバリア機能関連分子ZO-1の発現を減少させることが知られ、我々は、これらの関連性を明らかにするために、TFAP2Bの転写制御因子のひとつであるリン酸化STAT3と角膜内皮のバリア機能について検討した。ヒト角膜内皮組織全体にリン酸化STAT3の発現が認められ、ex vivoおよび角膜内皮細胞株を用いたSTAT3リン酸化阻害剤の検討によって、角膜内皮のポンプ機能関連タンパク質Na, K-ATPaseではなく、バリア機能関連タンパク質のZO-1の発現が低下した。さらに、リン酸化STAT3の発現低下は、角膜内皮細胞のアポトーシスを伴う細胞死も認められた。次に角膜内皮でのSTAT3シグナルを活性化させるサイトカインについて培養角膜内皮細胞株を用いて検討すると、LIF、IL-6、IFNγによってSTAT3がリン酸化されることが分かった。これらのサイトカインのうちLIFについて検討すると、LIFの刺激によって角膜内皮のZO-1の発現を亢進させることが分かった。さらにZO-1(TJP1)遺伝子のプロモーター領域のルシフェラーゼアッセイによって、LIFを介したSTAT3のリン酸化によってZO-1の遺伝子の転写制御領域にそれらが結合することによってZO-1の転写を調節できうることが明らかになった。以上の結果から、TFAP2B遺伝子の上流の転写因子としてリン酸化STAT3はZO-1の発現を制御できうる転写因子であり、角膜内皮細胞の恒常性を維持する上で重要な転写因子であることが示唆された。
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