多くの遺伝子の発現には、約24時間を1周期とする変動 (概日リズム) が認められ、そのリ ズムは「時計遺伝子」と呼ばれる約20種類の転写因子群によって制御 されている。近年、免疫機構をはじめとする生体防御や異物排泄に関与する遺伝子の多くが、時計遺伝子の制御下にあり、その発現に概日リズムが認められるこ とが明らかになってきている。また、時計遺伝子の改変動物では、生体防御機構の破綻にともない、ガンや肥満・高血圧といった多くの疾患の発症頻度・重症度 が高まることが示されている。本研究の目的は、網膜内のVEGF発現が時計遺伝子によって制御されているか否かを明らかにし、 不規則な生活に伴い生じる「概 日リズム異常」がVEGF関連眼疾患の発症リスクを高める要因となる可能性を示すことである。まずはじめに、VEGF関連眼疾患のモデルマウスとしてOxygen- induced retinopathy (OIR) マウスを作成した。その結果、OIRマウスの網膜において既報と一致してVEGFの発現が一過性に上昇することが確認できた。また、 OIRマウスの網膜における時計遺伝子の発現を評価したところ、DEC2の発現がVEGFと同じタイミングで一過性に上昇することが明らかになった。そこで、網膜に おけるVEGF産生細胞の1種であるミュラー細胞の株化細胞MIO-M1にDEC2に対するsiRNAを導入した結果、VEGFの発現が有意に抑制された。また、DEC2に対する siRNAを導入したMIO-M1細胞ではVEGFの転写を促進する転写因子HIF1αの発現が有意に抑制されていた。これらの結果からDEC2は網膜においてHIF1αの細胞内蓄 積量の増加に寄与することでVEGFの発現上昇を引き起こすと考えられる。すなわち、VEGF関連眼疾患の発症に時計遺伝子の発現変容が関わる可能性が示された。
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