研究課題/領域番号 |
17K16981
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
真鍋 法義 東北医科薬科大学, 薬学部, 講師 (10392383)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 白内障病態形成 / アミノ酸残基の非酵素反応 / 乳酸触媒 / 計算化学と生化学実験 |
研究実績の概要 |
白内障の病態形成に関わるクリスタリン中アスパラギン酸(Asp)残基やアスパラギン(Asn)残基の非酵素反応に、乳酸が触媒として働いているという仮説のもと、計算化学・生化学実験を用いて研究を行っている。 計算化学のモデル化合物には、クリスタリン中のAsp残基やAsn残基を模倣するため、当研究室や関連研究で用いられているAce-Asp-Nme(ここでAceは-COCH3基、Nmeは-NHCH3基である。)やAce-Asn-Nmeを用いた。これらの反応は非酵素的であるが、その反応には触媒が必要となる。そこで、このモデル化合物に生理的条件下では解離状態で存在する乳酸を配置し、非酵素反応を進行させた。つまり、解離乳酸を非酵素反応の触媒として利用した。反応経路におけるすべての構造最適化計算は密度汎関数理論法を用いて行い、得られた最適化構造について振動解析を行った。また、溶媒和効果として水和ギブズエネルギーの計算を行い補正した。L-Aspから中間体であるスクシンイミド(Suc)まで、またSucのラセミ化反応、L-AsnからSucまでの反応について、解離乳酸の関与におけるL-AspやL-Asnの非酵素反応のエネルギープロファイルを作成した。その結果、反応の活性化障壁は、生体内で非酵素的に起こる反応の目安となる120kJ/mol程度以下であることを明らかとした。 生化学実験では、異性化が報告されているαA-クリスタリンの58残基目のAsp(Asp58)を含む11残基のモデルペプチドを用いた。乳酸濃度を0M、10mM、1Mと段階的に変化させた溶媒でモデルペプチドを70℃で保存し、最大10日間の各設定時間経過後にHPLCで各Asp異性体の濃度変化を観察した。その結果、乳酸の濃度依存的にL-Aspの異性体であるL-β-Asp、D-Asp、D-β-Asp濃度が増加していくことを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解離状態の乳酸を触媒として配置したL-AspやL-Asnの非酵素反応は、L-Aspから中間体であるスクシンイミド(Suc)までが5段階反応であり、活性化障壁は101.6kJ/molであった。また、中間体であるSucのラセミ化反応は1段階で反応が進行し、その活性化障壁は132.0kJ/molであった。L-AsnからSucまでの反応は、4段階で反応が進行しその活性化障壁は115.7kJ/molであった。これらのように、解離状態の乳酸を利用することで生理的条件下での非酵素反応が進行する活性化障壁の目安である120kJ/molをおおむね下回る結果を得ることができている。残りのSucからL-β-Aspまでの反応についても計算を進行させている。 生化学実験では、水晶体タンパク質であり異性化が報告されているαA-クリスタリンの58残基目のAsp(Asp58)を含む11残基のモデルペプチドを用いて研究を行っている。乳酸濃度を0mM、10mM、1Mと段階的に変化させた溶媒でモデルペプチドを70℃で保存し、最大10日間の各設定時間経過後にHPLCで各Asp異性体の濃度変化を観察した。その結果、乳酸の濃度依存的にL-Aspの異性体であるL-β-Asp、D-Asp、D-β-Asp濃度が増加していくことを明らかとした。現在は、保存温度を変化させて同様の実験を行うことで、アレニウスプロットから活性化障壁の値を算出するために研究を進行させている。また、pHの影響や、緩衝液の影響も合わせて検討するため、様々な条件での生化学実験を行う準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
白内障の病態形成には乳酸の関与が疑われる結果を得ることができた。乳酸の他にも、リン酸もまたこの反応に関与していることを計算化学的に報告することができた。今後も、引き続き計算化学と生化学実験を併用することで、L-AspやL-Asnの非酵素反応に関与している因子を探索していく。よって、乳酸だけでなくリン酸による非酵素反応の触媒機構の計算やpH変化の影響、生化学実験による活性化障壁の確認を行っていく。 また今年度より、当初の計画の通り紫外線の暴露によるL-AspやL-Asnの非酵素反応の計算も開始する。トリプトファン(Trp)やチロシン(Tyr)の酸化残基が、触媒として機能するかを計算化学的に明らかとする。
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