研究課題/領域番号 |
17K16981
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
真鍋 法義 東北医科薬科大学, 薬学部, 講師 (10392383)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 白内障病態形成 / アミノ酸残基の非酵素反応 / 紫外線の影響 / 乳酸触媒 / リン酸触媒 |
研究実績の概要 |
白内障の病態形成に関わるクリスタリン中アスパラギン酸(Asp)やアスパラギン(Asn)残基の非酵素反応には、触媒が必要とされている。そこで、触媒として乳酸やリン酸、酸化残基が働いているという仮説のもと、計算化学・物理化学的実験・生化学的実験を用いて研究を行っている。 酸化残基の影響では、タンパク質への紫外線(UV-B)の照射によっても、L-AspのD-体化(異性化)が引き起こされることが報告されている。これは、Asp残基に近接するトリプトファン(Trp)残基がUV-Bの吸収により酸化し、Asp残基のD-体化を触媒するためとされる。しかし、UV-Bを照射したTrp残基の化学構造変化はこれまで十分検討されていない。本年度は、計算化学において触媒として用いる酸化Trp残基を決定することを目的とした。つまり、UV-B照射によりTrp残基に起こる化学構造変化を、核磁気共鳴(NMR)法と質量分析(MS)法を組み合わせて明らかにすることを試みた。 Asp-Trpジペプチド水溶液に0.2 mW・cm-2のUV-B (302 nm)を照射し、UV 照度を計測しながら0.5、1、3、7日後に試料を回収した。回収した各試料の各種NMRスペクトルを測定し、信号の帰属を試みた。さらに、MS法を用いることにより、NMR法により得られた結果の補完を試みた。その結果、Asp-Trp水溶液は、UV-B照射により茶色に呈色し、UV光量の増加に伴いその呈色が濃くなった。MS法による解析においては、時間依存的に原料のピークが減少していることを確認した。また、UV-B照射後の試料のNMRスペクトルを解析したところ、新しいシグナルが時間依存的および光量依存的に出現した。現在は、NMRスペクトルの完全な帰属を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
解離状態の乳酸を触媒として配置したL-AspやL-Asnの非酵素反応の計算化学的検討では、L-Aspから中間体であるスクシンイミド(Suc)まで、Sucのラセミ化反応、およびL-AsnからSucまでの反応の活性化障壁は、それぞれ101.6 kJ/mol、132.0 kJ/molおよび115.7 kJ/molであった。これらの計算結果は、活性化障壁の値が生理的条件下での非酵素反応が進行する活性化障壁の目安である120 kJ/mol程度付近の値であった。生化学実験では、乳酸の濃度依存的にL-Aspの異性体であるL-β-Asp、D-Asp、D-β-Asp濃度が増加していくことを明らかとした。また、保存温度を変化させて異性化反応の実験を行うことで、アレニウスプロットを用いてL-AspからSucまでの反応の活性化障壁の値を算出したところ、乳酸濃度100 mMでは97.1 kJ/molとなり、計算結果を生化学実験からも支持することができた。また、リン酸緩衝液の触媒効果は90 kJ/mol程度となり、緩衝液の影響も確認できた。これらから、様々な因子が触媒効果を発揮していることを明らかとした。 紫外線の影響については、計算化学に触媒として用いる酸化Trp残基の同定を試みた。UV-Bの照射によりTrp残基に起こる化学構造変化を、核磁気共鳴(NMR)法と質量分析(MS)法を組み合わせて研究を行った。Asp-Trpジペプチド水溶液にUV-B (302 nm)を照射し、UV 照度を計測しながら試料を回収した。Asp-Trp水溶液は、UV-B照射により茶色に呈色し、UV光量の増加に伴い呈色が濃くなった。MS法による解析においては、時間依存的に原料のピークが減少し、NMRスペクトルを解析したところ、新しいシグナルが時間依存的および光量依存的に出現した。現在は発生する酸化残基の同定を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
紫外線の暴露によるL-Aspの非酵素反応の計算では、AspのN末側にTrpが存在しているβA3-クリスタリンの97 残基目のAsp(Asp97)や、AspのC末側にTrpが存在しているγS-クリスタリンの162 残基目のAsp(Asp162)について計算を行っていたが、触媒および反応経路が発見できていない。そのため、紫外線の暴露により生じる酸化Trp残基の同定を先に行うこととする。UV-Bの照射によるTrp残基の変化は、NMRスペクトルから化合物変化が起きていることを明らかとしており、複数のNMR測定法を組み合わせることで完全帰属を目指す。また、Aspの各種異性体のNMRスペクトルを得ることで、Asp残基の非酵素反応によるスペクトル変化の知見を集める。そして、その結果を計算化学へ持ち込むことで、反応経路を明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室の教室責任者の変更に伴う研究室の工事および引越が行われたため。さらに工事・引越の完了後において、コンセントプラグの工事ミス発覚による再工事や、給水系統の施工不良による錆の発生により水が使用できない事象が発生したため。また、参加予定であった日本薬学会が中止となり、出張が取りやめとなったため。 今年度は、UV-BのAsp異性化への影響をさらに検討するための標品の購入、NMRの使用料金、および生化学実験の消耗品(紫外線ランプや溶媒など)の購入に使用する計画である。
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