白内障の病態形成に関わるクリスタリン中アスパラギン酸(Asp)やアスパラギン(Asn)残基の非酵素反応には、触媒が必要とされている。そこで、触媒として乳酸やリン酸、酸化残基が働いているという仮説のもと、計算化学・物理化学的実験・生化学的実験を用いて研究を行っている。 酸化残基の影響では、タンパク質への紫外線(UV-B)の照射によっても、L-AspのD-体化(異性化)が引き起こされることが報告されている。これは、Asp残基に近接するトリプトファン(Trp)残基がUV-Bの吸収により酸化し、Asp残基の異性化を触媒するためとされる。しかしながら、Trp残基の酸化によるAsp残基の異性化のメカニズムの詳細は不明である。本年度は、NMR法によりペプチド中のAsp残基の異性化を同定する方法を確立すること、またその方法を用いて紫外線を照射したモデルジペプチドL-Asp-L-TrpのAsp残基の異性化をin situで捉えることを目的とした。方法としては、4種類のモデルジペプチドL-Asp-L-Trp、L-isoAsp-L-Trp、D-Asp-L-Trp、D-isoAsp-L-Trpの各水溶液について各種2次元NMRスペクトルを測定し、NMR信号の帰属を行った。さらに、L-Asp-L-Trpジペプチド水溶液に0.2 mW・cm-2のUV-B (302 nm)を照射し、経時的に回収した試料について各種NMRスペクトルを測定して、異性化の程度の判別を試みた。その結果、NMRスペクトルパターンの比較により、L体とD体、L体とiso体の区別が可能であった。さらに、UVを照射したL-Asp-L-Trpジペプチド水溶液のNMRスペクトルにおいて、Asp残基に由来する信号の化学シフトやNOEパターンが変化していた。以上から、UV照射によりジペプチド中においてAsp残基の異性化を示唆する結果が得られた。
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