研究課題/領域番号 |
17K16982
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長田 秀斗 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (50748770)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 網膜色素変性症 |
研究実績の概要 |
網膜色素変性は、国内の失明原因の第3位を占める。多くの原因遺伝子が知られているが、近年ヒト、マウスにおいてアディポネクチン1型受容体(adipor1)変異による網膜色素変性が報告された。しかしその機能の詳細は未だ不明であるため、色素変性症の新たなメカニズムの解明と新規の治療法の開発につなげるべく、本研究では網膜におけるadipor1の機能を明らかにすることを目的とした。研究実施計画に従い、まずは網膜におけるadipor1の発現を検討した。adipor1 mRNAの発現は生後網膜の発達にともなって上昇し、in situ hybridization法によりその発現部位を検討したところ、発現は網膜の視細胞および網膜色素上皮に特に限局していた。そこでadipor1ノックアウトマウスを用いて表現型を詳細に検討した。正常マウス網膜においては生後14日頃までに視細胞外節の形成が完了するが、電子顕微鏡観察によりadipor1ノックアウトマウスの網膜ではこの段階ですでに視細胞外節の顕著な変性を呈していることが確認された。その後視細胞死が進行し、色素変性を呈することが示された。それに伴い、視機能の低下が観察され、特に変性初期においては主に桿体視細胞に由来する機能低下が顕著であり、錐体視細胞は桿体視細胞変性の後に生じていることが示唆された。視細胞以外の神経網膜の細胞における顕著な変化は認めなかった。これにより網膜におけるadipor1の機能が正常網膜において視細胞外節の形成を通じた視機能の発揮に重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は当初の計画通りadipor1の網膜における発現解析と、ノックアウトマウスの表現型解析を実施した。ノックアウトマウスでは電子顕微鏡観察により初期網膜における視細胞外節の顕著な変性を認めた。その後視細胞死が進行した。それに伴い視機能の低下が観察され、特に変性初期においては主に桿体視細胞における機能低下が顕著であった。免疫染色により神経網膜の各種細胞に関して検討を行ったところ、視細胞以外の神経網膜の細胞における変化は認めなかった。これにより色素変性が視細胞変性由来であることを示し、今後視細胞に着目した機能の検討を行うための基礎となるデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、adipor1の機能を詳細に検討するため、引き続きKOマウスの網膜の解析を行う。網膜変性が起こる際の細胞内シグナル変化の検討を行うことで変性のメカニズムを明らかにする。さらに網膜における代謝産物の動態を検討する。これらの検討には、培養細胞でのノックダウンを用いた機能阻害実験も併用して進める。治療的介入の可能性を検討するために、これまでの知見から得られた候補物質をadipor1 KOマウスに投与しその効果を検討する。
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