われわれのグループでは、世界で初めて確固とした軸索を形成する網膜神経節細胞をヒトiPSから誘導することに成功した。このヒト網膜神経節細胞はその特徴である活動電位や軸索流を有し、形態やタンパク・遺伝子マーカーのみならず生理機能を有しているという優れた特徴をもっている。この網膜神経節細胞を用いて、これまで不可能であったin vitroでの網膜神経節細胞発生に関する研究が可能となってきている。 ことに、ヒト網膜神経節細胞の分化を決定づける転写因子Brn3bについて、これが発現した後、網膜神経節細胞は軸索を伸ばし、その分化の最終段階に入ることがわかっているが、Brn3bの下流で動く分子システムについては多くが知られていない。 初年度においては、まず網膜神経節細胞のその特徴的な軸索がこれまで既知の神経成長または抑制因子に応答し、網膜神経節細胞軸索の特徴を模倣できるかを検討している。その結果、軸索成長促進因子であるNGFを加えると軸索は有意に伸長し、軸索成長阻害因子であるSEMA3Aを加えると軸索成長が有意に抑制されることを見出した。次年度は、DNA microarrayを用いて、iPSの各誘導段階における発現遺伝子の変化を解析した。Brn3bを取り巻く遺伝子群について、いくつかの候補遺伝子を同定したが、現在までに、これらの遺伝子がいかに神経節細胞の運命決定をするのかに対して、結論は得られていない。今後、いくつかの候補遺伝子の中から機能解析を継続する予定である。
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