研究課題/領域番号 |
17K16997
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有馬 充 九州大学, 大学病院, 助教 (60772845)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 糖尿病黄斑浮腫 / 血液網膜関門 / 密着結合 |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症に対する治療法の第一選択肢は抗VEGF療法であるが、複数回に渡る VEGF 阻害剤の硝子体投与が必須であり、無反応例も存在することが臨床の現場で問題となっている。そこで抗VEGF療法に替わる新規治療法の開発に取り組んだ。まず我々は、バリア機能を有する血管内皮細胞特異的に発現する、ベイシジンという分子に着目し、その機能解析を行った。in vivo, in vitro検証結果より、ベイシジンがカベオリン-1の局在を制御することで、糖尿病網膜症における密着結合構成分子クローディン-5のエンドサイトーシスを抑制し、血管バリア機能の破綻を抑制することを証明した。しかし、臨床応用に向けてベイシジン中和抗体の硝子体注射実験をマウスで行ったところ、網膜の菲薄化を起こし神経毒性が強いことを確認した。そこでベイシジンの上流分子を探るべく、細胞内シグナル伝達経路、特にリン酸化シグナルに着目した。糖尿病モデルマウス網膜を用いたリン酸化タンパクの網羅的解析により、ROCKシグナルが糖尿病網膜症・黄斑浮腫形成に深く関与することを新たに見出した。ROCKシグナル阻害剤であるリパスジルを糖尿病モデルマウスに点眼投与したところ、クローディン-5の消失や血管バリア機能の破綻が抑制され、網膜浮腫形成が阻害されることを確認した。また、血管内皮細胞を用いたin vitro実験により、ROCKがVEGFシグナルの下流で作用することを確認した。ROCKはクローディン-5の細胞骨格への結合を外すことでクローディン-5のエンドサイトーシスを促しており、つまりROCKはベイシジンの上流で作用することも判った。リパスジルはすでに緑内障点眼薬として上市されており、眼毒性を懸念する必要性はない。引き続きリパスジルの具体的作用機序を特定し、臨床応用へ向けた研究を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はベイシジンに対する分子標的薬創製を目指していたが、網膜毒性が強く治療薬開発を断念するに至った。しかしその上流分子ROCKの同定に成功し、ROCK阻害により糖尿病黄斑浮腫の発症を抑制できるという実験結果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
糖尿病黄斑浮腫発症におけるROCKの作用機序を更に検証する必要がある。我々は糖尿病モデルマウスへ抗VEGF療法、抗ROCK療法(リパスジル点眼)を行ったが、網膜内炎症性サイトカインの発現パターンに両者で明瞭な差があることも確認している。つまりROCKはVEGFシグナル以外の経路でも活性化されている可能性がある。黄斑浮腫の遷延化には、1.血管バリア機能障害による炎症細胞の網膜への浸潤、2.浸潤した炎症細胞による網膜炎症惹起、3.網膜炎症による2次的な血管バリア機能の破綻、といった負のサイクルが働くと推察されている。抗VEGF療法と抗ROCK療法の作用機序に、1-3のどの段階で違いがあるのか、FACSや免疫染色を用いて確認し、また両者に相加相乗効果があるかについても検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験履行に必要な物品を購入した結果、約8万円の繰越が発生した。平成30年度に施行予定のFACS及び免疫染色に必要な抗体製剤の購入に充てる予定である。
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