本研究の目的は、創傷治癒が遅延することで様々な合併症を引き起こす糖尿病性皮膚創傷に着目し、その治癒過程における炎症及び組織修復の分子メカニズムを解明することで、治癒改善効果を示す新しい分子を同定することである。 以前、申請者らは、糖尿病性創傷治癒遅延の要因として炎症が長期化すること、また炎症本態としての糖尿病(DM)由来好中球が機能異常を生じたために炎症が長期化する可能性があることを示唆した。そこで、本研究では、糖尿病性皮膚創傷治癒遅延に関与するDM由来好中球制御の分子メカニズム解明のため、マイクロアレイを用いてDMマウス由来の好中球特異的に発現するmicroRNA(miRNA)を同定し、包括的に解析した。 その結果、miR-129を含む10種のmiRNAの発現が、DM由来好中球において有意に減少していることを見出した。また、それらmiRNAの標的遺伝子群においては、DM由来好中球で有意に増加していることを見出した。特に、miR-129は、炎症やアポトーシス、貪食に関与する複数の遺伝子発現制御に関与することを明らかにした。DMマウスの背部皮膚創傷部におけるmiR-129及び標的遺伝子の発現解析においても上記同様の結果が得られた。そこで、DMマウス背部皮膚創傷部において、miR-129を過剰発現させたところ、治癒促進効果を示したことを明らかにした。このことは、miR-129発現が回復したことにより炎症やアポトーシスなどに関与する遺伝子群の発現が抑制され、炎症が制御されたことが推察された。
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