研究実績の概要 |
糖尿病(DM)患者の創傷治癒は遅延し、難治性皮膚潰瘍になることが知られている。糖尿病性創傷治癒遅延の要因として、創傷部への好中球の過剰な動員や集積による炎症の長期化が報告されているが、その分子メカニズムは未だ明らかではない。 microRNA(miRNA)は、分子標的治療薬などの新規治療薬開発への有用性が非常に高いことで注目されており、標的 mRNA に結合することでその発現を制御し、蛋白質合成を阻害する。近年、生体内の炎症過程における miRNA 機能の重要性が明らかとなっている。従って、糖尿病性皮膚創傷の治癒過程における炎症制御への miRNA の関与が推察される。 そこで申請者らは、miRNA を中心とした階層的遺伝子発現制御機構の解明を目的として、独自に抗Argonaute2(Ago2)抗体を用いた免疫沈降法による成熟 miRNA を精製し、Microarray を用いて、DM由来好中球特異的に発現する多数の炎症関連 miRNA を同定した。さらに、炎症関連 miRNA 発現制御による創傷治癒促進効果を検討するために、DMモデルマウスの背部に生検トレパンを用いて4 mm径の創傷を作製した。次に、Pluronic gel アンチセンスオリゴ(AS ODN)デリバリーシステムを用いて、皮膚欠損創を作製したDMモデルマウスに miRNA mimic を直接投与し、非投与のDMモデルマウスとともに、各経過時間(0, 1, 3, 7, 10,14日)において、創傷治癒過程を肉眼的に観察し、創傷閉鎖率を計測したところ、miRNA mimic を投与した創傷部において、治癒の促進が認められた。さらに、免疫組織化学検討により、好中球の創傷部における集積が改善したことを明らかにした。従って、炎症関連 miRNA は、DM由来好中球の機能異常に関与しており、糖尿病性創傷治癒遅延は、炎症関連 miRNA に制御される遺伝子群によって惹起された可能性が示唆された。
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