本研究では,血液に塩酸や乳酸を投与し血液中の酸塩基平衡を移動させることで血中二酸化炭素濃度を強制的に増加させ,その直後に人工肺で二酸化炭素を除去することで効率的に血中二酸化炭素を除去するシステムを開発した.新規システムは持続血液濾過透析装置に人工肺を組み込み,さらに酸および塩基を投与する構成である.その有効性を確認するために,まずは実験用豚血液を用いた回路実験に行い,想定された結果を得ることができた. これを踏まえて,6頭の実験用豚を鎮静,人工呼吸管理としてこれを接続する生体実験を行った.このin vivo実験は①Baselineプロトコル:血液濾過透析のみ(人工肺に酸素投与を行わない),②人工肺プロトコル:Baselineプロトコルに加えて人工肺から酸素投与を行う,③酸投与プロトコル:人工肺プロトコルに加えて塩酸を持続投与する,④塩基投与プロトコル(新規システム):酸投与プロトコルに加えて塩基を持続投与する,の4つのプロトコルで行った.実験中は常に血中二酸化炭素濃度が一定となるように,人工呼吸器の呼吸数のみを調整した.その結果,人工肺によって除去された二酸化炭素量は,酸投与プロトコルおよび塩基投与プロトコルでBaselineプロトコルに比して1.6倍となった.さらに,塩基投与プロトコルにおける分時換気量はその他のプロトコルの約半分まで減らすことができた.したがって,新規システムによって安全かつ効率的に血中二酸化炭素を除去できることが分かった. またこの研究によって,酸を投与するのみでは肺保護戦略の実践には至らず,塩基の投与が必要であることを見出した.さらに,二酸化炭素を効率的にかつシンプルに除去するには,酸塩基平衡を通さずに直接吸着する原理を用いたシステムの開発が必要であることも示唆することとなった.
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