研究課題
本研究の目的はインテグリン強発現が敗血症性心筋障害に対してその障害を軽減できるかどうかを調べることである。リポ多糖(LPS)を20mg/kgのDoseで10週齢のオスのインテグリンα7β1D 強発現マウスと同腹仔コントロールマウスに投与して敗血症モデルを作製したところ、心筋細胞障害を示すマーカーである血清トロポニンI (TnI) 値はLPS投与48時間後のコントロールマウスにおいて8.5±1.8 mg/dL (LPS投与前:感度以下)であったのに対し、インテグリンα7β1D強発現マウスにおいては2.3±0.9mg/dLと有意に心筋障害が抑制されていた(p < 0.05)。また、生存率がコントロールマウスにおいてはLPS投与48時間で20%であったのに対し、インテグリンα7β1D強発現マウスでは68%と有意な改善が認められた。血管内皮の超微形態を確認すると、LPS投与により心臓の毛細血管壁は浮腫により肥厚しフィブリンの析出像が認められたが、インテグリン強発現マウスでは壁の肥厚は減弱し、フィブリンの析出も認められなかった。健常血管内皮を覆うように存在するグリコカリックスについて透過型ならびに走査型電子顕微鏡を用いた超微形態を観察したところ、コントロールマウスにおいては血管内皮から剥離し、血管内皮が血管腔に暴露されていたが、インテグリン強発現マウスにおいてはその障害が抑制されていた。小胞体ストレスのマーカーであるeIF2a-Pの発現を比較したところ、インテグリン強発現マウスにおいてはその発言が抑制されており、小胞体ストレスが軽減していることが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
インテグリン強発現マウスにおいて心筋障害が抑制されていることが確認され、その原因として小胞体ストレスが軽減していることが考えられた。現時点ではおおむね順調に研究は進行している。
引き続き血管内皮障害の検討を定量的に行う必要がある。また、インテグリン強発現マウスの心筋細胞を単離した状態で、Ca2+ハンドリング関連タンパク質の発現の検討、小胞体ストレスのマーカーであるeIF2a-P、小胞体内Ca2+量を表すカルレティキュリンの発現など小胞体ストレス関連タンパク質の分子生物学的評価等を行う。また、同じく単離した心筋細胞をCa2+蛍光プローブのFluo-4で染色し、心筋収縮に対応する活動電位によって惹起される全細胞質のCa2+濃度の上昇、すなわちCa2+トランジエントの測定を行う。また、さらに、RyR2からのCa2+の放出に対する影響を詳細に調べるために、単離心筋細胞の微小領域での非伝搬性のCa2+濃度上昇、すなわちCa2+スパークを計測し、RyR2の機能を評価する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Chest
巻: 154 ページ: 317~325
10.1016/j.chest.2018.03.003