研究実績の概要 |
我々の研究グループはARDS(重症呼吸不全)の病態に気管内の常在菌叢が修飾関与しているのではなかということについて検証してきた. 京都府立医科大学の研究グループと共同で,当大学病院高度救命救急センターおよび集中治療室入院中のARDS患者の気道上皮被覆液検体(BAL)からこれに含まれ る細菌の全ゲノム核酸を抽出し,全遺伝子情報を短時間で解析するメタゲノム解析を応用した次世代シークエンス法を用いてARDS時の常在菌叢パタンを解析した. この結果,下気道細菌叢においてStaphylococcus,Streptococcus,Enterobacteriaceaeの菌量と予後との相関が示された(Respir Res. 2019;20:246). また,当院病院高度救命救急センターおよび集中治療室に入院したARDS患者70名を対象として,BALを用いた原因微生物検出の有無と予後との関連について検証した.結果,死亡率は,病原体が証明されているARDS患者の方が,病原体が証明されていないARDS患者よりも有意に低かった(集中治療室死亡率:10% vs 50%,p 値:0.0006;院内死亡率:18% vs 55%,p値:0.0038).そしてARDS患者において,病原体の証明は院内生存率上昇の独立した因子であることが判明した(adjusted hazard ratio,0.238:95% 信頼区間,0.096-0.587;p = 0.0021).ARDS患者に対してBALを含む診断ワークアップの予後への影 響を調査した初の研究であり,社会貢献的意義があるものと考える。
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