当初の計画では上皮細胞特異的にPHD2をノックアウトする遺伝子改変動物を用いて研究を進める予定であったが,上皮細胞特異的な遺伝子改変が困難であること,またPHD2をノックアウトするだけでは明らかな低酸素誘導性因子の活性化が生じないことが明らかになった。これを踏まえ,敗血症のドライバーとなりうる腸管上皮特異的に,Von Hippel Lindau(VHL)をノックアウトすることで低酸素誘導性因子を活性化し,腸管傷害および予後を改善できるか検討を行う方針とした。 2021年度にはそれまでの結果を踏まえ,より再現性の高い敗血症による腸管傷害モデルとして,LPS腹腔内投与モデルを構築した。実験の結果,LPS投与後24時間後には,蛍光色素標識デキストランの経口投与試験において明らかな腸管の透過性亢進が生じることが確かめられ,さらに1週間以内に50%程度が死亡するモデルを構築できた。また,生存した個体については一週間程度のうちに透過性がもとのレベルにもどることを確かめることができた。 Villin Cre- ERT2:VHL flox/floxマウス及び,同腹仔のVHL flox/floxマウスにタモキシフェン経口投与を行い,7日後の段階において,腸管上皮細胞のVHLがほぼ消失し,低酸素誘導性因子の下流遺伝子群の発現上昇があることを確かめた。さらに, 腸管上皮細胞特異的にVHLがノックアウトされるVillin Cre- ERT2:VHL flox/floxマウスにおいては,上記で構築したLPS腹腔内投与敗血症モデルとした際に腸管の透過性亢進が抑制され,生存率も改善することが明らかになった。 以上から,腸管特異的に低酸素シグナルの制御因子であるVHLを阻害することで敗血症における腸管透過性亢進を抑制し,予後を改善できる可能性があることが示された。
|