歯髄には多くのイオンチャネルや神経ペプチドが存在しているが、それらの歯髄炎や根尖性歯周炎に対する影響は詳細には知られていない。本研究では、歯髄疾患モデルラットを作成し、歯髄疾患の病態やそれに伴う痛みの抑制方法について、神経科学的手法を用いて解明することを目的とした。 今年度は、雄性7週令Wistarラットの上顎左側第一臼歯に、三種混合麻酔の腹腔内投与による鎮静下で露髄処置を施し、口腔内環境に暴露させることにより歯髄疾患モデルラットを作成した。過量麻酔後にザンボニ固定液を用いた灌流固定を行い、各種組織を取り出した。上顎骨については10%EDTAによる脱灰処置を行った。それぞれの組織から、クライオスタットを用いて凍結組織切片を作成した。H-E染色による組織学的変化の解析から、露髄処置後は歯髄腔内で経時的に炎症が拡大し、露髄処置28日後では根尖部周囲組織に炎症性細胞の浸潤が認められることが分かった。各種抗体を用いて免疫染色を行ったところ、神経ペプチドの一つであるpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)を含む神経線維が、未処置群と比較して露髄処置後に増加することが分かった。蛍光二重免疫染色を行ったところ、PACAPを含む神経線維は、caltitonin-gene related peptide(CGRP)も有していることが分かった。歯髄感覚を受容する延髄の三叉神経脊髄路核において、侵害刺激受容のマーカーであるc-fosとPACAPおよびPACAP受容体との免疫染色を行った。その結果、c-fos陽性ニューロン周囲にはPACAP陽性神経線維が存在し、PACAP陽性神経線維周囲にはPACAP受容体の発現が認められることがわかった。
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