歯肉を覆う上皮細胞が形成する上皮バリアは、宿主が歯周病菌と拮抗状態を維持するために重要な役割を果たしている。近年の研究から、上皮バリアの破綻が感染症や慢性炎症等の疾患の素因となることが明らかとなっている。また、本研究の対象である歯周病菌Porphyromonas gingivalis は歯周組織を構成する歯肉上皮組織に侵入することにより、局所で長期感染を図っている可能性がある。しかし、P. gingivalis 感染による上皮組織の免疫応答等について不明な点が多い。 平成29 年度は、P. gingivalis の感染により分解を受ける上皮バリア関連タンパク質の網羅的解析を行い、候補タンパク質を2つ同定した。そこで平成30 年度は、候補タンパク質の歯肉上皮細胞における細胞内局在の観察、構造解析、および歯肉上皮バリア機能の確認を行った。その結果、候補タンパク質はまず小胞体に局在し、N末端の切断を受けた後に細胞膜へ輸送されることを確認した。また、P. gingivalis が分泌するプロテアーゼであるGingipain が候補タンパク質の分解の主な原因であることを見出し、Gingipain が候補タンパク質を分解するのに必須となるアミノ酸残基を同定した。 さらに、候補タンパク質のノックダウンにより、主に40 kDa 以上の分子量をもつトレーサーに対し歯肉上皮透過性が顕著に減少することを見出した。 これらの結果より、P. gingivalis は歯肉上皮細胞の上皮バリア関連タンパク質を特異的に分解し、非感染時では透過できない分子量をもつ病原因子を歯肉上皮下組織へ選択的に透過させることが示唆された。
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