Tissue inhibitor of metalloproteinase-1 (TIMP-1) は、様々な腫瘍で高発現し、かつ転移や予後不良と正の相関を示すため、その腫瘍促進的機能が注目されている。一方、Yes-associated proteinおよび、そのパラログであるtranscriptional co-activator with PDZ binding motif (YAP/TAZ)は、多くの癌で活性化されて増殖能を亢進している腫瘍促進因子であるが、その活性化機構は明らかではない。申請者は、予備実験にてTIMP-1がYAP/TAZを制御する可能性を見出したため、本研究の目的を、1) TIMP-1がYAP/TAZを制御する機構を解明すること、2) 腫瘍におけるTIMP-1-YAP/TAZ経路の異常および増殖促進作用を解明することとして実験を行い、以下の結果を得た。 ① 癌データベース(TCGA)およびヒト癌細胞株を解析し、様々な癌でTIMP-1の発現とYAP/TAZ活性化との間に正の相関が認められた。②TIMP-1は、CD63受容体およびIntegrin β1と複合体を形成し、SrcおよびRhoAを活性化してF-actin形成を促し、LATS1/2を抑制する。そしてYAP/TAZのリン酸化を低下させて核内移行を促し(活性化)、CTGFやCYR61などの増殖関連遺伝子の転写を促進し、癌細胞の増殖を亢進させることが明らかになった。③癌細胞で、TIMP-1の発現を抑制あるいはYAP/TAZを阻害することで、YAP/TAZを介して増殖能が低下することが示された。 以上より、TIMP-1-YAP/TAZ経路の詳細な機構と癌細胞の増殖能への寄与が明らかになり、TIMP-1-YAP/TAZ経路を指標とした診断・治療応用への可能性が示唆された。
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