近年、社会問題となっている育児放棄などの幼少期ストレスが、後々精神疾患の発症に関与するという疫学的データがあるが、その関連性は未だ不明瞭なままである。本研究では、抑制性神経機構に着目し、幼少期ストレスと精神疾患発症のメカニズムの一端を明らかにすることを目的とした。育児放棄のモデルである母子分離をマウスに行い、中枢における主要な抑制機構であるGABA 神経系の成熟が不可逆的に阻害されることを見出した。また、この抑制系の異常が成体になった後も、ADHD 様の行動異常につながる所見を得た。次に、上記の現象にクロライドトランスポーターである、KCC2 が鍵となることが申請者らの実験及び先行研究で考えられることから、KCC2 の活性調節機構を調べることにした。ここで、Akt-WNK1-SPAK-KCC2 の経路が活性化していることを明らかにした。幼少期ストレスが抑制系の成熟を阻害する分子メカニズムとその表現型との具体的な関連性を初めて示唆することが出来た点において、良好な結果が得られたと考えられる。
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