これまでに、抗不安薬が口腔乾燥症を発症することから、その発症メカニズムについて解析してきた。本研究は、精神性疾患患者の口腔状態を改善すべく唾液腺機能維持薬の開発を行うものである。精神性疾患の治療は、抗不安薬や睡眠薬の投与が一般的で、長期連用する場合がほとんどである。しかしながら、副作用として唾液分泌の抑制を伴い唾液のもつ抗菌作用を失わせてしまうことで、細菌に起因する様々な歯科疾患の発生率が高まってしまう。精神性疾患患者において抗不安薬の投薬を止めることは事実上不可能であるため、これらの疾患の唾液分泌機能の改善が必要である。これまでに我々は、抗不安薬として使用されるベンゾジアゼピン系薬物の受容体が脳と同様に唾液腺にも存在することを明らかにしてきた。そして、PACAP -DBI pathwayで発現するDBIは、抗不安薬の投与により口腔乾燥が起きた時に増加することも明らかにした。本研究の目的は、このPACAP-DBI pathwayのレセプターの阻害薬を動物に局所投与し、抗不安薬投与下でも唾液分泌の抑制を抑えることができるかどうかを明らかにし、その効果を利用して唾液腺機能維持薬を作製することである。 本研究は、抗潰瘍薬のレバミピドが、PACAP-DBI pathwayのレセプターの阻害薬よりも唾液分泌の改善に有効との結果が得られたため、一部変更して研究を進めた。本研究から、ベンゾジアゼピン系薬物のジアゼパムを長期間投与した口腔乾燥発現モデルラットにおいて、レバミピドが唾液分泌の抑制を回復させること、ジアゼパムにより抑制された細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる結果が得られた。また、唾液分泌機能維持薬を局所に投与するために、レバミピドの至適濃度の検討を行ったところ、培養唾液腺細胞に対する安全な濃度において、口腔内細菌に対しては菌の増殖を抑制するという副次的な結果が得られた。
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