腫瘍は、腫瘍細胞からなる実質とその周囲の間質から構成されている。近年、微小環境、特に間質の硬さが実質の腫瘍形成を促進することが報告されているが、その詳細な分子機構は不明である。口腔癌では癌周囲に硬結を触れることがある。つまり、間質に機械的変化が生じており、この機械ストレスを機械侵害受容器Piezo1が感知し、腫瘍形成に関与していると推察した。そこで、本研究では、Piezo1の腫瘍実質への影響を解明すると共に、Piezo1が機械ストレスを受容しその下流シグナル経路による腫瘍形成に与える影響を解明し、腫瘍実質と間質の両方を標的とした次世代型口腔癌治療薬の開発を目的とした。 複数の口腔扁平上皮癌細胞株を用いてPiezo1の発現を解析し、これらの細胞株でPiezo1が高発現していることを確認した。Piezo1高発現株において、Piezo1アゴニストを作用させると、Piezo1発現量依存的およびアゴニスト濃度依存的に細胞内のイオン流入を変動させた。加えて、Piezo1アゴニストの濃度および時間依存的にERKのリン酸化が変動した。Piezo1に対するsiRNAを設計し、その効果をmRNA、タンパクおよび細胞内イオン流入により確認した。このsiRNAによるPiezo1の発現抑制下にて口腔扁平上皮癌細胞株の増殖の変動が認められた。以上の結果より、Piezo1の発現が口腔扁平上皮癌の細胞増殖を制御する可能性が示唆された。
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