研究課題
本研究では、ジカウイルスのアフリカ株がアジア株へ変異し強毒化したことによって、胎盤や血液脳関門の透過性が増したのではないかとの仮説を検証するために、ジカウイルスのアフリカ株およびアジア株の1回感染性ウイルス様粒子(SRIPs)を作製する。SRIPsは2次感染しないため、安全であり、遺伝子組み換え体の作製にあたっては大臣申請が不要であるため、容易に遺伝子組換えウイルス様粒子を用いた実験が可能である。本研究で用いるSRIPsを作製するために、①pCMV-JErep, ②pCAG-JEC, ③pCAG-ZIKprMEの3種類のプラスミドベクターの構築が必要である。①はサイトメガロウイルスプロモーター下に日本脳炎ウイルスのNS1-5領域が組み込まれている。②はCAGプロモーター下に日本脳炎ウイルスのキャプシド領域が組み込まれている。③は CAGプロモーター下にジカウイルスのアフリカ株およびアジア株の前駆膜およびエンベロープ領域がそれぞれ組み込まれているものである。これら3種類のベクターを同時にHEK293T細胞にトランスフェクションすると、培養上清中にジカウイルスのアフリカ株およびアジア株のSRIPsがそれぞれ産生される。現在、①②のベクターは構築済みだが、③のベクターの作製途中である。すでにアフリカ株およびアジア株の前駆膜およびエンベロープ領域のクローニングは終えているため、 pCAGプラスミドベクターへクローニング生成物をインサートする段階である。①のレプリコンベクターにはルシフェラーゼ遺伝子が組み込まれているため、SRIPsが感染した細胞はルシフェラーゼを発現する。これを利用することで、細胞実験においてはSRIPsの感染効率の確認やその定量化が可能となる。また、ジカウイルス感染モデルマウスを用いた実験では、組織中の感染細胞を定量化することが可能となる。
2: おおむね順調に進展している
現在、③pCAG-ZIKprMEの3種類のプラスミドの作製中であり、これが完成すれば、ジカウイルスのSRIPsを得ることができる予定である。すでにジカウイルスのアフリカ株およびアジア株の前駆膜およびエンベロープ領域の増幅には成功している。さらに、この塩基配列がNCBIのデータベース上のものと一致していることをシーケンス解析にて確認しているため、まもなくpCAG-ZIKprMEが完成すると思われる。同時に、日本脳炎ウイルスのSRIPsを作製するためのプラスミドベクターを準備した。これは細胞への有効な1回感染性が既に報告されているものである。これを陽性コントロールとして用いることで、ジカウイルスSRIPsの感染性を評価する予定である。以上の理由より、実験はおおむね順調に進展していると言える。
研究実績の概要に記載した③pCAG-ZIKprMEのプラスミドベクターの構築が完了したら、ジカウイルスSRIPsを作製し、ウイルス易感染性細胞株であるVero細胞に感染させ、ルシフェラーゼの発現を解析し、作製したSRIPsが感染力を有することを確認する。次に、アジア株およびアフリカ株のウイルスやSRIPsをマウスに静脈内投与で感染させ、両株間で胎盤や血液脳関門の透過性、さらに胎児や脳への移行性に違いがあるかRT-PCR法やルシフェラーゼアッセイを用いて解析する。近年、ジカウイルスの前駆膜領域の1アミノ酸置換がヒトに対する病原性の上昇に関わることが報告された。しかし、このアミノ酸置換以外にも、病原性の違いに関わる変異が存在する可能性がある。両株のSRIPs間で病原性の違いが確認された場合、その候補となる変異をデータベースから検索し、アジア型をアフリカ型に変化させたSRIPs、またはアフリカ型をアジア型に変化させたSRIPsを作製し、その胎盤や血液脳関門の透過性、胎児や脳への移行性を観察する。これにより、ジカウイルスの病原性を規定する強毒化因子を同定する。
SRIPsを発現させるためのプラスミドのクローニングに必要なPCR反応や大腸菌への形質導入の効率が良かったため、当初の計画よりも少ない回数で済んだ。当該助成金は請求した助成金と合わせ、次年度に消耗品および実験動物飼育管理費として使用する予定である。
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Antiviral Research
巻: 146 ページ: 1-11
10.1016/j.antiviral.2017.08.007.