研究課題/領域番号 |
17K17104
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
神山 長慶 大分大学, 医学部, 助教 (50756830)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ジカウイルス / SRIPs / アフリカ株 / アジア株 / 侵入能 / キメラSRIPs |
研究実績の概要 |
フラビウイルス属のジカウイルスはアフリカを起源とし、ヒトには感染蚊に吸血されることで感染が成立する。アジアを経由する際にアフリカ株に変異が入ったものは総称してアジア株と呼ばれているが、アジア株が近年世界中にその分布域を広げ、小頭症やギランバレー症候群といった神経変性疾患の原因となることが明らかになった。しかし、ジカウイルス感染症に対する有効な治療薬やワクチンは未だに確立されておらず、さらなる拡大の予防が喫緊の課題となっている。本研究ではジカウイルスのアフリカ株およびアジア株の1回感染性ウイルス様粒子(SRIPs)を作製し、アフリカ株とアジア株の宿主細胞への侵入能を比較することを試みた。SRIPsはHEK293T細胞にジカウイルスのキャプシド領域、前駆膜およびエンベロープ領域、および非構造タンパク領域を別々に組み込んだプラスミドベクターを同時に形質導入することで、その培養上清中に産生されるため、容易に得ることができる。SRIPsは2次感染することがないため、安全であり、遺伝子組み換え体の作製に大臣申請が不要である。また、SRIPsにルシフェラーゼ遺伝子を組み込むことにより、感染細胞を定量化することが可能になる。通常のウイルスを用いると宿主細胞への侵入能と細胞内での複製能を分けて解析することは困難であるが、SRIPsの1回感染性は宿主細胞への侵入能の解析に非常に有効であると言える。本年度はアフリカ株とアジア株のSRIPsを作製し、各種動物細胞株に感染させたところ、アフリカ株の侵入能が高いことが示された。そこで、侵入能を規定するアミノ酸を同定するため、アフリカ株とアジア株の配列を部分的に入れ替えたSRIPsを構築し、感染実験を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に開始したSRIPs作製に必要なプラスミドの構築を完了した。そこで、アフリカ株とアジア株のSRIPsを各種動物細胞株に感染させ、その感染量を比較したところ、ほとんどの細胞株において、アフリカ株がアジア株に比べて有意に侵入能が高いことが明らかになった。また、この傾向は各種ヒト細胞株を用いた実験でも同様であった。また、いくつかの先行研究ではジカウイルス感染モデルマウスに対する致死性や細胞死の誘導性はアジア株に比べてアフリカ株の方が高いことが示されている。我々も生ウイルスを用いたマウスに対する感染実験で同様の結果を得た。これらの事実を踏まえると、これまで、アジア株の神経変性疾患を伴う大流行ばかりが、注目されてきたが、アフリカ株が今後、重篤な神経変性疾患を伴う大流行を引き起こす可能性は十分にあると考えられる。実際、ジカウイルス感染症との関係が明らかにされてこそいないが、2012年には、ナイジェリアのラゴスで蚊の活動が活発化する時期に小頭症患者が激増したという報告もある。 次に我々はアフリカ株がアジア株に比べて侵入能が高くなる理由を調べることにした。ジカウイルスの宿主への侵入に重要な領域は、感染細胞に直接接触する前駆膜およびエンベロープ領域である。当該領域のアフリカ株、アジア株の配列をキメラ状に有するSRIPsを作製し、感染実験を行ったところ、アフリカ株エンベロープ領域のC末端側201アミノ酸の中に侵入能に重要なアミノ酸領域が存在することが明らかになった。また、感染の局在を明らかにするため、蛍光SRIPs作製のための新たなベクターの構築に着手した。 以上の理由より、実験はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記のジカウイルスの侵入能に重要と考えられる201アミノ酸の中には、両株間で11箇所の違いが存在する。現在、当領域で新たなキメラSRIPsを作製し、最終的にどのアミノ酸が侵入能に重要であるか明らかにする予定である。11箇所のアミノ酸から侵入能に重要であるアミノ酸を明らかにしたら、アジア株の当該アミノ酸のみをアフリカ株のものに変異させたSRIPsを作製し、その侵入能が戻るかを確認する。そのため、site-directed mutagenesis法により、1アミノ酸変異SRIPsを作製する。 ジカウイルスと同様に蚊によって媒介されるデングウイルスやチクングニアウイルスは蚊の吸血時に蚊の唾液腺から皮下に存在する宿主の樹状細胞に感染し、その細胞が所属リンパ節に移動することによって、全身に感染していくことが明らかになっているが、ジカウイルスの場合は初期感染細胞が未だ明らかにされていない。初期感染細胞を明らかにするため、蛍光タンパク遺伝子を組み込んだジカウイルスSRIPsを発現させるプラスミドベクターの構築を進める。 蛍光SRIPsが完成したら、これをマウスの皮下に投与することで、初期感染細胞種をフローサイトメトリー法で同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
SRIPsをを作製するためのプラスミドベクターのクローニングや細胞への感染実験が当初の計画よりも短期間で終了したため、次年度使用額が生じた。次年度にはマウスを用いたSRIPsの感染実験を予定しているため、当該助成金は請求した助成金と合わせ、次年度に実験動物飼育管理費や消耗品費として使用する予定である。
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