本研究では、担癌組織に対する放射線照射の影響として、癌胞巣を取り巻く脈管組織の損傷と修復機序に注目し、担癌モデルマウスへのX線照射による癌実質および間質の経時的な構造変化と分子変動を明らかにすることを目指した。前年度までに、ヒト口腔癌細胞株を用いたヌードマウス舌組織への移植モデルを確立し、マウス舌に安定してX線照射を行うための手順ならびに使用器具の最適化を行った。 最終年度では、特にリンパ管誘導能の高いOSC19癌細胞株を移植した舌組織を対象として、免疫標識による血管内皮細胞(PECAM-1)、リンパ管内皮細胞(Lyve-1)、増殖細胞核(Ki-67)を中心とした形態解析(2次元組織画像)、また、連続薄切・多重免疫染色から組織立体構築を行い、脈管間質の構造変化について3次元構造解析を行った。移植後のOSC19癌細胞は、中分化型の形質を示す癌胞巣を形成し、周囲間質では血管内皮およびリンパ管内皮の有意な増殖が確認できた。脈管形成誘導に関して、OSC19はVEGFAやVEGFCの発現に乏しいため、マクロファージ等の炎症細胞の活性化に伴うVEGFシグナルが脈管修復に働いている可能性が推察された。移植7日後(2 mm超の腫瘍塊)の舌組織に対するX線の複数回照射(2 Gy/day×1~3 days)では、大半の癌細胞が死滅して壊死組織となるが、炎症反応が惹起された間質では毛細血管が拡張しており、照射刺激による炎症応答が続いていることが確認できた。一方、リンパ管の拡張は認められず、既存組織のリンパ管は縮小傾向を示したが、癌胞巣周囲のリンパ管内皮は概ね維持され増殖活性を示す細胞も確認できた。これらの所見から、X線照射後の組織修復過程において、脈管形成のバランスは癌細胞の介在によって変化する可能性が示唆された。
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