研究実績の概要 |
近年新たな歯科補綴装置製作手法としてレーザー積層造形法(SLM)の応用が注目を集めている.しかし、SLMで製作した造形体には造形方向によって機械的性質が異なる異方性が存在し造形方向によって疲労強度が低下するという問題が指摘されている,そこで本研究では造形体の異方性を制御し機械的性質の等方化を目的とした最適な熱処理条件を解明することを目的した. 積層造形装置EOSINT M280とCo-Cr合金粉末MP1を用いてダンベル型引張試験片を,積層方向に対して異なる造形方向(0°, 45°, 90°)で製作した.その後アルゴン雰囲気下で係留温度750℃,900℃,1050℃,または1150℃,係留時間6時間の条件で熱処理を行った.組織観察の結果750, 900,1050℃の熱処理を施した試料では造形方向に伸長した柱状晶から構成された繊維集合組織が観察された.一方で1150℃の熱処理後の試料では等軸状の結晶粒が観察され,EBSDの結果低いKAM値を示し十分な残留応力緩和が達成されていることが明らかとなった.これは熱処理による再結晶化により生じたものと考えられる.機械的性質では熱処理前には0°材の0.2%耐力は90°材よりも低く,0°材の伸びは45°および90°材よりも高く顕著な異方性が認められたが熱処理後の試料では,異方性は減少し統計学的に有意差は認められなかったものの完全に消失することはなかった.組織学的な異方性は解消されているものの機械的性質に関してわずかに異方性が残存したことの一つの要因として造形後のサポート材除去工程の影響が考えられた.
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