本研究は、冷圧刺激によって生じる嚥下機能改善機序の解明を目的とし、温度刺激を口腔内に適応した際に生じる嚥下関連の神経活動に与える効果を経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて検証した。昨年度までに冷刺激による即時的な興奮性の増強効果を認めており、本年度は一定の温度刺激を行った後の延長効果について検証を行った。 1、刺激時間での検証 対象は若年健常者8名(平均年齢29±3歳)とした。咽頭筋の運動誘発電位(PMEP)および短母指外転筋の運動誘発電位(TMEP)のベースライン値を測定し、その後、15℃の冷刺激の繰返し刺激を、刺激なし、2分間、5分間、10分間のいずれかの刺激時間パターンを口腔内の舌背部に適応した。刺激後60分後まで、15分毎のPMEPおよびTMEPを記録した。振幅の平均値を被験者ごとに算出し、刺激前のベース値からの変化率について反復測定分散分析を用いた要因分析を行った。結果、10分間の繰返し冷刺激を行った場合に、PMEPにおいて刺激後30分後において有意な振幅の変化が認められた。 2、刺激温度での検証 対象は若年健常者12名(平均年齢27±3歳)とした。PMEPおよびTMEPのベースライン値を測定し、その後、15℃、36℃、45℃の繰返し温度刺激を、10分間口腔内舌背部に適応した。10分間の刺激後60分後まで、15分毎のPMEPおよびTMEPを記録した。刺激前の振幅のベース値からの変化率について反復測定分散分析を用いた要因分析を行った。結果、10分間の15℃の繰返し冷刺激を行った場合、刺激後30分後においてPMEPに有意な振幅の変化が認められた。 以上より口腔内への冷温度刺激によって嚥下関連皮質の興奮性が認められ、その変調の延長効果が期待できると考えられた。これらの内容は27th dysphagia Research Society等にて発表を行い、現在英文誌に投稿準備中である。
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