歯科領域において、現在までに様々な骨再生療法研究がなされており、骨形成促進について一定の成果を得ているが、増生骨の吸収や骨量減少が問題となっており、増成骨の吸収抑制および長期維持が重要な課題となっている。増生骨の維持には骨代謝制御が重要である。インスリン様成長因子結合蛋白-3(IGFBP-3)はこれまで、インスリン様成長因子(IGF)の安定化や運搬を介して骨形成促進に関与すると考えられていた。しかし近年、IGF を介さずに骨形成抑制や骨吸収促進に作用する、新たな機能の可能性が指摘されている。本研究の目的は、IGFBP-3自身が有する新たな機能の可能性に着目し、骨組織におけるIGFBP-3のIGF非依存的作用機序を解明し、IGFBP-3を介した骨代謝の均衡制御の可能性を検索すること、また、この知見を応用し、増生骨の長期維持を可能にする新たな骨再生療法の基盤を構築することである。 これまでに、マウス骨組織切片を作製し、骨組織中におけるIGFBP-3の発現について組織学的解析を行った。また、MC3T3-E細胞およびマウス大腿骨由来骨髄間質細胞を用いて、骨芽細胞におけるIGFBP-3の発現の有無および継時的変化について解析した。さらに、IGFBP-3が骨芽細胞分化に及ぼす影響について、遺伝子発現解析、ALP活性解析、石灰化解析を行い、IGFBP-3が骨芽細胞の分化および成熟に対して抑制的な作用を及ぼすことを明らかにした。またその際、IGFBP-3はBMP-2シグナルを抑制することで骨芽細胞の分化および成熟を抑制する可能性が示唆された。これらの結果は専門論文として既に公表されている。 令和元年度は骨芽細胞分化に対するIGFBP-3の作用機序についてさらに解析を進めるとともに、骨代謝に及ぼすIGFBP-3の影響を解明するため、骨吸収に着目し、破骨細胞に対するIGFBP-3の作用を検証した。
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