本研究の目的は,舌圧測定と舌運動モーションキャプチャシステム(電磁アーティキュログラフ)の同時測定により,舌と口蓋の接触前後の舌運動の様相も補完して舌圧発現パターンを評価することであり,一連の嚥下動作中にみられる舌圧発現様相を舌運動の軌跡とともに吟味することで,これまでの舌圧発現様相に関する知見をさらに深めるとともに,臨床における舌圧測定においてより詳細な嚥下機能評価が可能になると考えている. 本年度は前年度で構築した計測系でさらに被験者数を12名に増やし分析を進めた.舌運動軌跡の上下方向成分と舌圧の同期波形図上において,各被験者間で共通して認められる舌運動軌跡の波形上の変曲点を,タイムイベントとして定義し,嚥下時舌運動パターンの定性的評価を行った.その結果、Dipper typeの嚥下において,舌圧発現の前後で全ての被験者に共通して見られる運動パターンを見出した.すなわち,嚥下動作開始後,まず舌前方と後方が同じタイミングで上下運動し,次に時間的差のある上下運動をして口蓋に接触した.そして上下方向にはほとんど変化のないプラトーな状態がしばらく継続した後,舌前方とP後方は同じタイミングで口蓋から離れ始め,安静位に復位した. 嚥下時舌運動と舌圧発現との時間的関連性について級内相関係数を用いた分析の結果、舌圧のOnsetは,舌前方と後方が口蓋接触する時とほぼ同じタイミングで発現し,級内相関係数を用いた結果では,舌後方が口蓋に接触する時と非常に強い時間的関連性を認めた.一方,舌圧のOffsetは舌前方と後方が口蓋から離れるタイミングよりも有意に早く発現し,時間的関連性も弱かった. 以上より舌運動と舌圧発現様相との同時計測から,水嚥下時の舌運動パターン,舌圧発現様相と舌運動との関係が明らかとなり,これらのことは,嚥下時における舌圧産生メカニズムの解明の一助となりうると考えられる.
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