MSCは、Porphyromonas gingivalisのLPSにより炎症性サイトカインを産生することが報告されている。MSCは再生療法における有用な細胞ソースであるが、手術後の創傷治癒時にもMSCが抗原である口腔内細菌と付着することで免疫応答が発生し様々な細胞因子や細胞の機能に変化が起こることが予想される。しかしMSCを骨分化誘導時にどのような変化があるかは不明である点に着目し、研究代表者は本研究を始めることにした。 研究開始年度から代表者異動研究体制が大きく変化し、研究代表者が得意とする細菌を用いた実験は困難となった。そのため歯科での臨床応用が目指されている顎骨由来MSCを調整し、骨髄由来MSCとともにその性質を明らかにしながら口腔内細菌由来因子における影響を調べることとした。 若齢・老齢の雄性マウスの顎骨からMSCを採取した。同様に脂肪組織と骨髄からもMSCを採取した。免疫応答に関する実験を行う前に、採取した細胞に対し石灰化・脂肪分化誘導刺激を与えて、分化傾向を調べた。顎骨由来細胞では、老齢個体由来細胞の方が若齢由来よりも骨分化傾が強い傾向が認められ、一方、脂肪組織由来細胞では、老齢個体由来細胞の方が若年由来よりも脂肪分化が弱い傾向が認められた。マウスの様な小型動物からは、1個体より得られる細胞数が少ないと懸念されたが、十分な細胞を得ることができた。これらの結果を踏まえ、今後、顎骨由来MSCの免疫応答について解析を行っていく予定である。 顎骨由来間葉系幹細胞は、人への臨床応用を考えた際に、腸骨骨髄等よりも簡便でドナーへの侵襲が少なく得られるなどの利点が認められる。特に、高齢実験動物の顎骨からのMSC採取のケースは珍しく、今後新しい知見が得られると予想される。しかしその一方、未だ知見に乏しい点もあるため、今後その性質を十分に理解しながら研究を進めていく予定である。
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