研究課題/領域番号 |
17K17185
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
池田 弘 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (80621599)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コンポジット / エナメル質 / 歯冠修復物 |
研究実績の概要 |
歯冠修復物において、表面硬度や弾性係数などの機械的性質は、生体適合性の観点から重要である。しかし、既存の歯科材料では、天然ヒトエナメル質と同等の表面硬度と弾性係数をもつものはない。そこで本研究では、エナメル質と同等の機械的性質(表面硬度と弾性係数)をもつ人工エナメル質を開発することを目的とする。さらに、人工エナメル質の強度、接着耐久性、審美性などの実用性を付与することで、高機能で実用的な歯科材料へと発展させる。 この目標を達成するため、複合材料のナノ構造に着目した。一般的なナノコンポジットは、無機フィラーがマトリックスレジンに分散したいわゆる海島構造をもつ。海島構造をもつ複合材料は、実用歯科材料として多く使用されているものの、その表面硬度と弾性係数はエナメル質の1/4程度しかない。そこで、本研究では、セラミックスとレジンがナノレベルで複雑に絡み合った共連続構造を形成することでエナメル質と同等の表面硬度と弾性係数をもつナノコンポジットの作製に取り組んだ。 本年度は、セラミックス成分にシリカ、レジン成分にポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いることで、ナノレベルの共連続構造体が合成できるかを検討した。まず、独自の有機-無機複合化技術を用い、ナノ連通細孔をもつ多孔質シリカを得た。得られたシリカの細孔内にメチルメタクリレート(MMA)を含浸させた後、熱重合することによってSiO2-PMMAコンポジットを作製した。種々の分析方法を用いて構造解析を行ったところ、SiO2-PMMAコンポジットはナノレベルの共連続構造をもつことがわかった。さらに、シリカ含有量によって表面硬度を自在に制御できることがわかった。作製条件を最適化することで、ヒトエナメル質と同等の表面硬度を実現できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、シリカとPMMAがナノレベルで複雑に絡み合った構造である共連続構造をもつSiO2-PMMAコンポジットの作製に成功した。この特異的な微細構造によってエナメル質と同等の表面硬度を達成した。一方、弾性係数は既存の複合材料に比べるとエナメル質に近いものが得られたが、まだエナメル質よりも小さい値である。また、SiO2-PMMAコンポジットの曲げ強さは、100MPa程度であった。この値は、歯冠修復物として使用するには低く、さらなる改良が求められる。
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今後の研究の推進方策 |
新規SiO2-PMMAコンポジットは、エナメル質と同等の表面硬度は達成できたが、弾性係数はエナメル質より低い値を示した。また、SiO2-PMMAコンポジットを歯冠修復物として使用するためには、高強度が求められる。したがって、新素材の高機能化を目指し、以下の項目について検討する。 (1)弾性係数:複合材料の弾性係数は、無機成分と有機成分の種類と混合比に大きく依存する。そこで、PMMAにかえて多官能性モノマーであるTEGDMAおよびUDMAを有機成分として用い、新しい複合材料の作製に取り組む。 (2)強度(曲げ強さ):セラミックスとレジンをグラフト化するために、γ-MPTSでシランカップリング処理する。このシラン処理によって試料の曲げ強さが大きく増加すると予想される。曲げ試験の測定はISO6872に準拠する。 (3)構造解析:試料の構造解析には、XRD、FT-IR、XPS、ラマン分光分析、TG-DTA、SEM-EDX、およびTEMを用いる。得られた結果から、諸性質と構造の関係を明らかにし、材料作製にフィードバックすることで機能を向上させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品や旅費などで計画とわずかに差が生じた。これらは次年度に効率よく使用する予定である。
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