研究課題/領域番号 |
17K17211
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 俊介 九州大学, 歯学研究院, 助教 (60710994)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炭酸アパタイト / 溶解析出反応 / 炭酸含有量 / 石膏 / 硫酸カルシウム |
研究実績の概要 |
申請者らは骨の無機組成が炭酸アパタイトであることに着目し、前駆体を用いた溶解析出反応による炭酸アパタイトの調製法を確立した。炭酸アパタイトが破骨細胞に吸収され、骨リモデリングに調和して骨に置換される原因はアパタイトに炭酸基が存在し、破骨細胞が形成する弱酸性環境において溶解度が高いためであると考えられるが、炭酸アパタイト中の炭酸基含有量が、炭酸アパタイトの破骨細胞性吸収に及ぼす影響は検討されていない。本研究は、炭酸アパタイトブロック中の炭酸基含有量を制御し、炭酸基組成が炭酸アパタイトの骨置換速度に及ぼす影響を解析するとともに、骨置換速度を飛躍的に加速した炭酸アパタイト骨置換材を創製することである。 当該年度は炭酸基含有量が異なる炭酸アパタイトを調製することが可能であるか検討を行った。炭酸アパタイトの前駆体となる石膏硬化体を、硫酸カルシウム半水塩を蒸留水で練和し、分割金型(直径6ミリ、厚さ3ミリ)に入れて調製した。次に、前駆体である石膏硬化体を種々のリン酸-炭酸混合溶液中に浸漬し、溶解析出型組成変換反応で前駆体の形態を保ったまま、組成を炭酸基含有量が異なる炭酸アパタイトに変換が可能か検討した。調製した炭酸アパタイトの組成分析は粉末X線回折装置および赤外分光分析、CHNコーダーを用いて、炭酸含有量を含めて解析を行った。 結果、石膏硬化体をいかなるリン酸炭酸混合溶液中に浸漬した場合でも,形態を保ったまま組成変換が可能であり、また炭酸ナトリウムを用いた場合、炭酸水素ナトリウムを用いた場合と比較して炭酸含有量が2倍に増加することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究においては、石膏(硫酸カルシウム)を前駆体として溶解析出型組成変換反応で炭酸アパタイトブロックを調製する系において、炭酸アパタイト中の炭酸基含有量が、1)破骨細胞性吸収に及ぼす影響、2)骨芽細胞のup-regulationに及ぼす影響、3)炭酸アパタイト人工骨置換材の骨置換速度に及ぼす影響を検討することを目的とする。 当該年度は炭酸基含有量が異なる炭酸アパタイトを調製することが可能であるか検討を行った。結果として、石膏前駆体を種々の炭酸ーリン酸混合溶液に浸漬することで炭酸含有量の異なる炭酸アパタイトの調製が可能であることを確認した。当該年度では異なる炭酸基含有量を持つ炭酸アパタイトの調製が可能か重点的に調査したため、予定していた細胞実験を来年度に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は①実験試料の追加解析②細胞実験③動物実験を行う。 ①に関しては本年度組成分析を行ったため、次年度は物性の追加検討を行う。 ②に関しては、炭酸アパタイト(CO3Ap)中の炭酸含有量が骨芽細胞の分化と破骨細胞による吸収に及ぼす影響を調べる。CO3Apディスク表面に骨芽細胞懸濁液を播種し、細胞の初期接着性を測定するとともに、経時的な細胞増殖を計測する。また、破骨細胞への分化誘導能と吸収活性からCO3Apの吸収性を解析するために、RAW264細胞を炭酸基含有量の異なるCO3Ap上に播種し、RANKL を含むα-MEM中で培養して分化を誘導し、培養後に細胞固定した後、TRAP染色を行う。形成されたTRAP陽性の多核の破骨細胞数を計測すると共に、破骨細胞分化のマーカーであるTRAPとカルシトニンレセプターおよびカテプシンKのmRNAの発現をRT‐PCRで評価する。破骨細胞の吸収活性の測定には、ウサギ大腿骨より採取した破骨細胞をCO3Apディスク上に播種、培養し、TRAP染色された試料表面上の多核巨細胞の数を測定するとともに、試料表面に形成される破骨細胞による吸収窩数および吸収窩面積を計測し定量化する。 ③に関しては炭酸アパタイト中の炭酸基含有量が炭酸アパタイトの組織親和性、骨伝導性、骨置換速度に及ぼす影響の病理組織学的検索を行う。ラット頭蓋骨に骨欠損を作成し、調製した炭酸含有量の異なるCO3Apで再建する。埋入一定期間後に組織標本を作製し、ALP活性、オステオカルシン産生量を生化学的に評価する。病理標本はH&E染色を行い、炎症の有無、CO3Apディスク周囲への骨の形成、CO3APの吸収形態および吸収の程度、新生骨のリモデリング状態を評価する。また、CO3Apの吸収については、破骨細胞性吸収であるかを判断するためにTRAP染色を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本研究の目的は炭酸アパタイトブロック中の炭酸基含有量を制御し、炭酸基組成が炭酸アパタイトの骨置換速度に及ぼす影響を解析するとともに、骨置換速度を飛躍的に加速した炭酸アパタイト骨置換材を創製することである。当該年度は主に異なる炭酸基含有量を持つ炭酸アパタイトを作成できるか重点的に調査し、細胞実験、動物実験を次年度に行うこととしたため、当該年度開始する予定であった細胞実験分の費用を次年度に使用することとした。
(使用計画) 次年度は細胞実験、動物実験を主に行う予定である。細胞実験では近交系ラットの大腿骨から骨髄細胞の細胞懸濁液を、また破骨細胞前駆細胞(RAW264:マウスの培養破骨前駆細胞株)を使用する予定であり、また動物実験ではラット頭蓋骨骨への骨補填材埋入を予定しているため、細胞株および実験動物用費用がかかることが予想される。また結果解析用のための機器の購入を予定している。
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